※記事中の組織名、拠点名、部署名などは記事公開当時のものです。
始まりは旧知の長澤さんを弊社のイベントに招いた時のことです。
”長澤さんが住む白馬村の集落にある簡易水道の水源池の水位を監視・記録したいが何か方法はないか?”
という問いかけでした。
長澤さんは、土木工学の技術者として、永年、主に松本市街地から上高地に至るR158のトンネル工事に携わってきましたが、現在は生まれ育った白馬の山麓で米作りに精力を傾けるかたわら、民宿「むじなざわ」を営んでいらっしゃいます。
民宿むじなざわはノーベル物理学賞を取った方が3名もいるグループも訪れる、知る人ぞ知る山の宿です。
そして米作りでは、「お米日本一コンテストinしずおか」という品評会で金賞をとったこともある、こだわりの米作りで知られています。
民宿むじなざわは、長野オリンピックのノルディック競技の主会場となった白馬クロスカントリー競技場(スノーハープ)から1km程山側に行ったところにあります。
地形的に上水道を引くことができないので、周辺の集落の住民の皆様は、山の尾根近くの湧水を集めた貯水池に貯まる水を生活用水に使っています。
長澤さんの問いかけをどのように実現しようかと現地を訪れたのは6月25日のことでした。
投げ込み式の圧力センサ型の水位センサと、弊社の標準的な特定小電力無線データロガーである子機RTR505B-Vを使って電圧出力を水位に換算する変換式を入力し、親機と組み合わせれば、水位の監視や記録が出来ることと、現地にモバイル通信環境や電源があることを確認して帰社しました。
せっかく親機を設置するので、水位の監視だけでなく、貯水池の水温、貯水小屋の温湿度の監視、それらのデータの記録も同時に行えるように、2種類の子機 RTR502B、RTR503Bも設置することにしました。また、水位センサを入手し、貯水槽に設置する為の加工を行いました。
準備が整い、弊社社員5人で設置に向かったのは7月14日でした。設置後は、弊社のクラウドサービスである、「おんどとりWeb Storage」でデータをモニターしていますが、順調に動作していることが確認できています。
そんな中、社内で「このプロジェクトを、”おんどとりイズム” の中で ”温度だけじゃない おんどとり” としての特集に使いたい」という意見が出て、今回の取材の申し込みをさせていただき、快く引き受けていただきました。

| 取材日 | 2025年10月24日(金) |
|---|---|
| 訪問先 | 白馬村 内山地区 |
| 対応していただいた方々 | 長澤氏:民宿「むじなざわ」を営む 渡邉氏:2005年に千葉県から移住 廣瀬氏:白馬村 上下水道課 課長 高橋氏:給水設備の施工を担当 高石氏:内山地区 区長 |
長澤さんは、「むじなざわ」という民宿を営まれておられますが、この地区に民宿は多いのですか。
長澤氏
昔は、夏になると受験勉強のためにこの地域に滞在する学生さんが多く訪れ、いくつかの民宿が並んでいました。
渡邉氏
私は2005年に千葉県からこの地に移住してきましたが、まさに学生のときに合宿で初めて白馬を訪れたんです。
長澤氏
時代とともに宿の数は減りましたが、今もこの土地の静かな環境を求めて訪れる方々がいて、変わらずこの地の魅力を感じてもらえています。
昔からの学生さんとのご縁も続いており、物理学の研究をされているグループの皆さんには合宿で毎年利用していただき、ノーベル賞を受賞された先生もこれまでに3人訪れてくださっています。
長澤さんは、お米作りにも力を入れておられ、コンテストで賞をとられたこともあるとか。

長澤氏
毎年静岡県で行われているお米のコンテストで、3年前に金賞を受賞しました。
その後も受賞を目指して挑戦を続けていますが、なかなか2回目の受賞は難しいですね。
今年のコンテストの出品は、ちょうど今日提出したところなんです。昨年よりも良い出来だと思っているのですが、さて、どうなるんでしょうね。
また、毎年変化する気温とお米の出来との関係を詳しく知りたいと思い、今年から御社の温湿度ロガー「おんどとり」を田んぼの真ん中に設置して、温度と湿度の計測を始めました。
特に、稲の穂先の高さの温度を測定するように、設置位置にもこだわっています。
田んぼの真ん中に設置してあっても、田んぼわきの道に車を止めて、スマホからBluetoothでデータを取れるので、とても便利なんです。
水道水の確保には昔から苦労があったとうかがいました。

この地区の水道の水源は、「むじなざわ」の裏山の尾根近くから一年を通じて湧き出る湧水で、地区の水道を支えています。
廣瀬氏
白馬村の中には、この地区のように水圧の関係で公共水道を引くのが難しく、独自の給水施設でまかなっている地域がいくつかあります。
長澤氏
この地区では昔から水が貴重で、私の父も「水道を切らすわけにはいかない」と、いつも気にかけていました。
あまり多くを語らない人でしたが、水道の確保に苦労している姿を子どものころから見ていました。
廣瀬氏
水源の水位の変動要因としては、平成26年には白馬村が震源となった神城断層地震がありました。その影響で水源の水が減った箇所もあります。地震の影響で水脈が変わったのだと考えられます。
長澤氏
東山の方が岩盤の影響もあるのか、地震の揺れも大きかったり、リスクが高いんです。
地震は水がなくなる要因のひとつであり、水が枯れてしまうのではないかと考えると、恐ろしさを感じます。
この地域では、北アルプスの山並みを「西山」と呼び、それに対する東側の山々を「東山」と称しています。白馬村の内山地区は、東山のふもとにある地域です。
給水施設について教えてください。

高橋氏
昔の給水設備は、1メートル四方くらいの小さなタンクを3か所ほどに分けて設置したもので、その水で地区全体の水道をまかなっていました。
渡邉氏
私が学生の頃、合宿に来たときはお風呂に葉っぱが浮いていることもありました。
高橋氏
その頃は、湧き水だけでは水量が足りず、沢の水も混ぜて使っていたんです。
そのため葉っぱや泥が混じることもあり、洗濯物に色がついてしまうこともありました。
「このままではいけない」ということで、長澤さんのお父さんが中心となって尽力され、平成元年から二年ごろにかけて、現在の貯水槽を備えた給水施設が整備されました。
以前の給水設備と現在とではどのように変わったのですか。
長澤氏
新しい給水施設には、約24トンの貯水槽が2基設置されており、最大で48トンの水を蓄えることができます。
貯水槽の容量が大きくなり、十分な水を確保できるようになったことで、沢の水を使わず、きれいな湧き水だけで地区の水道をまかなえるようになりました。
廣瀬氏
白馬村には、独自の水源によって水道をまかなっている地区がここを含めて6か所あります。その中でもこの内山地区が一番規模が大きいです。
私も施設を見させてもらいましたが、高橋さんの施工もあり、かなりしっかりとした設備で感心しました。
給水施設の維持は、どのようにされているのですか。
長澤氏
維持管理は、地区の住民が中心となって行っています。
毎年4月29日には、住民全員で貯水槽の水をいったん空にし、内部を清掃しています。
一旦貯水槽を空にすると、どのくらいで満水になるのですか。
高橋氏
水量は季節によって変わりますが、4月ごろは雪解け水も多く、およそ1日ほどで満タンになりますね。
長澤氏
季節による水量の変化は、3月の後半から雪解けが始まり、4月から6月にかけては水が豊富になります。
特に5月・6月は梅雨の時期でもあるため、水量が多い状態が続きます。
7月・8月も水は十分にありますが、例年9月ごろから少なくなっていきます。
ただ、今年は9月に降水が多かったため、現在も水量は比較的安定しています。
11月から翌年2月までは雪解けもなく、水の少ない、心配な時期になります。
水位センサをつけてから気が付いたことなどありますか。

長澤氏
水源の水量は特に冬の間が最も少なくなります。
7月にセンサを設置してからこれまでは、高水位で安定していました。
これから冬を迎えるにあたり水量の減少は心配なので、水位を常に確認できるようになったのは大変有意義だと感じます。
高橋氏
施工からもう40年近く経ちますが、今でも漏水の兆候がデータ上に見られず、設備工事をやらせていただいた私としては安心しています。
長澤氏
試しに、風呂にたくさん水を入れたら貯水槽の水位が1cm程度変化するのを確認できたので、かなり正確に測れているようです。
また、水温の変化が少ないのは意外でした。夏の一番暑い時期で13℃位、現在10℃位ですが、夏はもっと高温になっていると思っていました。
渡邉氏
他の地区の人から「この地区の水は暖かく旨くねぇ」なんて言われたこともありましたが、データを見るとそんなことない。と改めて安心しました。
廣瀬氏
水位のデータがない状態で突然断水してしまうと大変です。水位が下がってきたら、皆さんで使用を制限するなどの対応もできます。そうした判断材料としても役立つと思います。
渡邉氏
実際に、何年か前に目視で貯水量が減っているのを確認して、節水を呼び掛けたことがありました。
廣瀬氏
白馬村の公共水道施設にも、同様にすべて水位センサが設置されており、クラウドを活用して常時監視が行われています。
――冬の渇水期などに貯水槽の水位が下がった際、「このくらい下がったらメールで警報を出す」という設定も可能です。

長澤氏
これまでは水位を目視で確認するしかなかったので、警報が出るのはとても助かります。今後は冬のデータを見ながら、どの水位を基準に設定するか検討していきたいと思います。
廣瀬氏
今回の水位測定の仕組みは、他の小規模な給水施設でも使えると思うのですが、同じように利用できるものでしょうか。
――弊社の機器でご利用いただけるクラウドサービス「おんどとり Web Storage」は、無償でお使いいただけます。そのため、最初に機器をご購入いただくだけで、どなたでも今回と同じように水位を測定していただくことが可能です。
廣瀬氏
他の地区の小規模な給水施設でも、水位を測定したいという相談を受けることがあるので、ぜひ紹介させていただきたいと思います。
高橋氏
個人の店舗などでも独自の給水タンクを備えているところがありますので、そうした案件にも紹介できそうです。
今回設置させていただいた弊社製品は以下の通りです。
| 用途 | 製品名 / 型番 |
|---|---|
| 水位測定 | ワイヤレスデータロガー RTR505B |
| 電圧モジュール VIM-3010 | |
| 水温測定 | 温度 ワイヤレスデータロガー RTR502B |
| 給水施設内 温湿度測定 | 温湿度 ワイヤレスデータロガー RTR503B |
| モバイル通信 | モバイルベースステーション RTR500BM |
※水位センサは弊社製品ではなく、市販品を使用しました。





