Yukichi

植物工場で活躍するおんどとり

農業と聞くと多くの人は畑の風景をイメージすると思う。このような畑で栽培する方法を「土耕栽培」と言うのだが、もう一つ「水耕栽培」という方法が存在する。水耕栽培とは、土を使わずに水と液肥で育てる方法を指す。植物工場の多くはこの水耕栽培を採用している。これまで おんどとりイズムでは、土耕栽培におけるおんどとりの活用事例をいくつか紹介してきたが、本記事では植物工場における水耕栽培の現場で活躍するおんどとりの事例を紹介していきたいと思う。今回は水耕栽培システム「808プラントシステム」を開発し全国展開を目指す株式会社ハートフルマネジメントの三原社長にお話を伺うため、実際の設置現場となる栃木県日光市の株式会社衛生管理センター「かんだふぁーむ」様を訪問した。

日付 2023年7月7日
取材応対 株式会社ハートフルマネジメント 三原社長
訪問先 株式会社衛生管理センター「かんだふぁーむ」
使用機器 RTR500BW・RTR502BL・RTR-576
使用目的 水温管理・工場内の温度、湿度、CO2濃度管理

早速ですが、貴社の取り組みについて教えてください。

三原氏
「弊社ではLED 人工光を利用した水耕栽培で無農薬の野菜を生産する『808プラントシステム』を独自に開発しました。各地の自治体と連携し、道の駅から近い場所に植物工場を建てることで、販売までにかかる物流コストを抑制しています。」

――最近の道の駅は地元の農家と連携して、新鮮な野菜を販売しているところが多くありますね。私も地方に行くと道の駅に立ち寄ってお土産と一緒に新鮮な野菜を購入することが旅の楽しみの一つになっています。
三原氏
「今後は各地の道の駅の敷地内にこの808プラントシステムを使った施設を作り、訪れたお客様に美味しい野菜を購入してもらうことを目指しています。基本的に葉物であれば何でも作ることができますが、弊社のシステムでは主にリーフレタスを生産しています。こちらの『かんだふぁーむ』様では 3種類のリーフレタスを生産しており、生産量としては1日あたり約350株を栽培することができます。また、栽培から梱包、発送に至るまでの工程をこのシステムで完結させることができるようになっています。」

三原社長ご自身は、農業に関連した経歴をお持ちなのでしょうか?

三原氏
「いいえ全くありません。元々はゼネコンにいて、マンションから商業ビル、オフィスビル、工場といった建設現場の管理をしていたので、始めから農業関連に興味があって今の事業を始めた訳ではありません。ゼネコンから離れた後は不動産情報サイトの運営をしていたのですが、その頃、ある企業から『空き倉庫を植物工場にして有効活用する仕組みを提案したいので、空き倉庫を所有する企業を紹介してくれないか』という相談を受けました。私が知るお客様の中に条件に合う企業があったので、この時は仲介の立場で空き倉庫の植物工場化の話を一緒に持って行きました。商談は成立し、空き倉庫を所有する企業が植物工場化するのに必要な設備を導入し、晴れて植物工場として稼働することになりました。ただ、実際に稼働してみると想定よりも植物が育たず売上を立てることもできない状態で事業は上手く回らず、更に設備の賃料を回収することができない状態になってしまいました。再度、先の企業から私の元へ相談をいただいた際に『この事業、私にやらせてください』と事業を引き継ぎ、今に至っています。引き継ぐ際、植物工場の設備や育成に関して知見を持つ方と共に事業を進めてきたのですが、この方が諸事情によりハートフルマネジメントを退職したため、自分の力で液肥の管理から育成に関することを勉強しました。『808プラントシステム』は私たちハートフルマネジメントで商標登録したオリジナルのシステムとなっています。ちなみに『808』は『八百屋』をもじって付けました。」

――事業を引き継いでからシステムを完成させるまでに大変だったことを教えてください。
三原氏
「まず、リーフレタスは全体で2000種類くらいあるのですが、その中でも植物工場で育てやすいとされる100種類をテスト栽培して色・形が良いものを選定し、最終的に6種類に絞りました。それから工場内の温度・湿度・CO2・EC値・pH を調整し、収穫時の見た目や食感といった品質を向上させるために試行錯誤を繰り返しました。当然、温度は高すぎても低すぎても育ちませんので、これらの設定値については農業の指導も行う大学教授に相談し、今のシステムを作り上げてきました。大変なことはもちろんありましたが、多くの皆様にご協力いただいたお陰で乗り越えることができました。」

――周囲の協力があって808プラントシステムを確立することができたのですね。808プラントシステムを作り上げた三原社長の情熱を感じます。

水耕栽培のメリットをお聞かせください。

三原氏
「やはり天候に左右されないので年間を通して安定した生産量を確保できる点が一番のメリットです。土耕栽培だと天候に左右されるので、年によって生産量や価格・品質に影響が出やすいのですが、水耕栽培の場合、品質・価格共に安定させることができるのでその点に強みがあります。また、菌 (雑菌や腐食菌) がほとんど付着しない点もメリットとして挙げられます。菌の基準値は厚生労働省によって設けられていますが (※1) 808プラントシステムの植物工場で生産される野菜に付着する菌は約1000くらいに抑えられています。これはほぼ無菌に近い数値です。植物工場であればこのような無菌に近い野菜を農薬を使わずに生産することができるので、洗わずに食べることができます。また、農業と福祉が連携した『農福連携』という取り組みがあるのですが、弊社では障がいを持つ方の雇用や就労支援を行っています。植物工場の作業は屋内で行うので雨の日は仕事が休みということがなく、安定して業務を行うことができます。また、土をいじらず力作業もほとんどない点から障がいを持つ方や、高齢者の方々にとっても働きやすい環境になっています。」

――こういった環境であれば大きな負担もなく業務を行うことができますね。その地域に雇用が生まれるというのもまた素晴らしいと思います。

(※1)厚生労働省の弁当及びそうざいの衛生規範についてを参照すると細菌数に関する記述を確認できるが、この数値と比較すると 808 プラントシステムのリーフレタスの場合、菌の数が圧倒的に少ないことがわかる。

ここからはおんどとりについて伺います。どういうきっかけでおんどとりを知ったのかお聞かせください。

三原氏
「当初、東京都西多摩郡にある既存の倉庫を植物工場にして様々な試験を行っていたのですが、ある時、名古屋の電磁弁を製造する企業の担当者がおんどとりを持ってきてくれたんです。その方がおんどとりを色々な箇所に設置して温度などを確認することができると紹介してくれたことでその存在を知りました。ただ、私は話を聞いただけでは納得できなかったので自らの目で実機を確認し、やりたいことが実現できるかをティアンドデイさんに問い合わせました。サポートいただいた結果、自分たちのやりたいことができると確認できたので、今回の設置に至りました。」

――おんどとりを使う前と後で変化したことはありますか?
三原氏
「使う前は現場を巡回して温度計を目視で確認し、表に温度を記入していました。毎日この作業を行うのは大変でしたが、今は自動でグラフ化されていくのでパソコンから温度などの項目をチェックしています。また、記入漏れといったこともないので助かっています。」

どのような目的でおんどとりを導入されたのかお聞かせください。

三原氏
「今回導入した目的は2つあります。まず1つ目は、リーフレタスに与える液肥の水温を測定すること、2つ目は植物工場内におけるCO2濃度のムラを確認するためです。まず水温ですが、この植物工場は液肥が 4箇所で流れるようになっていて、それぞれの箇所に RTR502B を設置して水温を記録しています。そして CO2濃度は、RTR-576 で記録しています。高さ方向でムラが出やすいのではないかと考え、栽培棚の1段目と4段目に互い違いに設置しています。RTR-576 を導入したことで場所ごとによる CO2濃度に大きなムラはないことが分かりました。今後も記録を続けて育成に関わるノウハウを溜めていきたいと思っています。」

――異なる種類のリーフレタスを同時に育てていますが、種類に応じて温度や湿度を調整しているのでしょうか?
三原氏
「植物工場内は仕切りを設けていないので、種類別に温度や湿度を調整することはしていません。この空間全体の温度は22℃前後、湿度は 60 ~ 75%、CO2濃度は 800 ~ 1200ppm を維持するように設定しています。」

記録した温度データはどのように活用されているのでしょうか?

三原氏
「温度は空調を使って管理し、CO2濃度もまた専用の機器で制御しているので大きくブレることはありませんが、おんどとりはこれらの数値を確認する目的で運用しています。今後、仮にリーフレタスの育ちが悪くなってしまった場合もおんどとりの記録データを見返すことができるので、例えばなぜこの時に温度が高くなったのか、などという振り返りの材料として活用していきたいと思っています。おんどとりの使い方はまだ勉強中なので、これから様々な活用方法を見出していきたいと思っています。」

――貴社ではティアンドデイ製品以外にも多数のセンサを設置されているので、それぞれの機器の使い方を把握するのは大変だと思います。おんどとりを運用されていく中で不明な点等があれば、お気軽にお問い合わせください。

それでは最後に、三原社長が考える今後の展開についてお聞かせください。

三原氏
「冒頭でお話ししたように全国津々浦々の道の駅の敷地内に808プラントシステムの施設を作っていくのが夢です。ただ、道の駅は自治体が管理していることもあって、導入に至るまで様々な手続きが必要になります。そのため、まずは道の駅周辺に808プラントシステムを作っていく『道駅ふぁ~む事業』を進めています。ここ『かんだふぁーむ』様は道駅ふぁ~む1号として稼働しています。808プラントシステムは空き倉庫があればその空間を有効活用することができますが、建物がなくても 100坪くらいの土地があればこのような植物工場を作ることができます。また、市街化調整区域(※2)にも施設を作ることができるという点も808プラントシステムの強みです。」

(※2)市街化調整区域とは郊外の田畑が広がる土地を指し、都市計画法によって定められた区域区分のうちの市街化を抑制する区域を指す。市街化を目的としない区域なので、原則として住宅や商業施設などを建てることはできないが、許可が出れば建物を建てることが可能となる。

三原氏
「そしてもう一つ、結婚式場に向けて808プラントシステムで栽培されたリーフレタスを披露宴の中で『ハネムーンサラダ』として提供いただく提案を行っています。英語圏ではレタスのみのサラダを『ハネムーンサラダ』と呼ぶそうで、由来はレタスのみ “lettuce alone” の発音が “let us alone” (二人きりにして) に似ていることからだそうです。リーフレタスは33日で栽培することができるので、事前に二人で式場へお越しいただきリーフレタスの種植えをしてもらいます。種植えといってもピンセットを使ってトレイの上に種を並べていく簡単な作業です。このように種植えされたレタスは、私達が 808プラントシステムに持ち帰り、収穫まで大事に栽培します。収穫したリーフレタスは式場の厨房までお届けし、式の参列者に「ハネムーンサラダ」として召し上がっていただくという提案を行っています。」

――ハネムーンサラダという言葉を初めて耳にしました。私たちが普段食べるサラダにもこういった意味が込められると特別なものになりますね。ここまでお話をお聞かせいただきありがとうございました。

おわりに

実はこの日、私たちが取材を行う前に 植物工場業界で著名な先生 (研究成果やノウハウが日本中の植物工場で活かされる程の実績をお持ちの方) と植物育成用 LED 照明等を手掛ける企業の担当者様がいらしており、三原社長、衛生管理センターの社長を含む4名が、潅水時にとある成分が水路で結晶化してしまうことへの対策などを話し合っていた。今回はこの打ち合わせの合間におんどとりイズムの取材にご協力いただいたのだが、私たちもこの打ち合わせに居合わせたので、おんどとり Web Storage や T&D Graph (グラフ表示用のソフトウェア) について説明させていただいた。結晶化する原因は原水の水質によるものなのか、水温に原因があったのか、これらを考察するためにおんどとりが記録したデータを使って「どの時点から温度変化があったのか」「原因は何だったのか」「今後どう対策すべきなのか」といったことを熱心にお話しされていた。おんどとりは使用される業界によって記録対象が異なることはもちろん、記録したデータを分析する方法も様々であることから、毎回興味深く取材させていただいている。おんどとりが記録したデータを使ってお話しされている様子を目の当たりにして、私たちの製品が担う役割の重要性を改めて認識し身の引き締まる思いだった。

この度は取材にご協力いただきありがとうございました。

株式会社ハートフルマネジメント ウェブサイト

ライタープロフィール

Yukichi

Yukichi

東京デザインサイト所属。 星の写真撮ったりしてます。