※記事中の組織名、拠点名、部署名などは記事公開当時のものです。
東京都渋谷区、ここは商業施設が立ち並び若者たちが集う賑やかな繁華街だが、この地の奥には「奥渋谷」と呼ばれるエリアがある。
繫華街の喧騒から離れたこのエリアで、出来たてのモッツァレラチーズ等を製造・販売するチーズ屋さんがある。
その名は「& CHEESE STAND」
今回の取材のきっかけは、代表である藤川真至様のTwitterでの呟きからであった。チーズの製造工程における温度管理で「おんどとり」を使用いただいている、という情報をキャッチした。
早速取材交渉を行ったところ、ご協力いただけるということで今回のおんどとりイズム掲載に至った。
渋谷区内に「SHIBUYA CHEESE STAND」「& CHEESE STAND」、世田谷区内に「CHEESE STAND LAB.」を展開されている中で今回は、代々木公園から程近い渋谷区富ヶ谷の工房兼販売店舗である「& CHEESE STAND」さんへ訪問し、お話を伺った。
日付 | 2022年4月19日 |
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訪問先 | & CHEESE STAND |
使用機器 | TR-71wb |
使用目的 | チーズの製造工程における温度管理 |
Q.出来たてのチーズといえば牧場でしか手に入らないイメージでした。この渋谷の地で、出来たてのチーズを販売することを決めた理由を教えてください。
藤川氏「大学生の時にバックパッカーをしていたのですが、最終的にイタリアへ行き着いて南の方のナポリへ行きました。その時料理人になりたいという思いがあって、ナポリピザの料理店で飛び込みで修行をさせてもらったんですが、ナポリ近郊にはモッツァレラの工房がたくさんあって、そこへアポなしで見学しに行ったら出来たてのチーズを食べさせてくれたんです。その時に感じた美味しさが強く印象に残って、いつか自分もチーズを作りたいと思ったのが最初のきっかけです。牧場でチーズを作ったとしても出来たての美味しさは届けにくいので、街中で出来たてのチーズを食べてもらいたいという思いからこの渋谷の地で始めました。」
――実は取材へ伺う前週、SHIBUYA CHEESE STAND さん(渋谷区神山町)へ伺い、「出来たてモッツァレラ」と「さけるモッツァレラ」を購入して自宅でいただいた。特に「出来たてモッツァレラ」はジューシーさを感じた。これを渋谷で買えるのか…と舌鼓を打った。
Q.チーズスタンドさんのチーズへのこだわりについて教えてください。
藤川氏「ミルク感を残すように作っています。モッツァレラでいえばジューシーさ、リコッタであればミルクの甘味を残すようにして作っています。工程としては、乳酸菌を入れてから短期で発酵させるのですが、菌は生きているので、投入した時点で状態がどんどん変化していきます。これをコントロールするために温度・pH・時間を注視しながら日々製造しています。例えば、今日は水温が低いから少し温度を上げてみよう、といったことをすると想定していたよりも温度が上がってしまうことがあります。するとpHにも影響を与えてしまうので、時間を調整して日々工夫しながら製造しています。」
――季節や日々の温度によって細かなチューニングが必要なのですね。
Q.原料となるミルクはどこから仕入れているのですか?
藤川氏「東京都清瀬市にある牧舎から仕入れています。その地域には牧舎が6軒くらいあるんですよ。実は都内には50軒弱くらいの牧場があって、西多摩地域の方に多くあるんです。ただ、高齢化や跡継ぎの問題でその軒数は減少傾向にあるようです。」
Q.日本全国に牧場がある中で、東京から仕入れている理由を教えてください。
藤川氏「ミルクの輸送時間は短い程良い状態で届きます。タンクローリーで店舗まで運ばれてくるのですが、走行中の振動によってミルクが波打つと泡立ってしまいます。すると、表面積が大きくなって酸化してしまうのです。こういった状態になるのを最小限に抑えるために都内の牧舎から仕入れています。あと、東京のミルクは乳脂肪分が高いので、甘味があるんですよ。」
――東京都内でミルクを生産しているとは、初耳だったのでとても驚いた。
新鮮なミルクといえば北海道のような広大な牧場で搾乳するイメージが強かったのだが、今回お話を伺ってそれが覆された。
Q.一日に何リットルくらいのミルクが運ばれてくるのですか?
藤川氏「最近は平均で大体450リットルくらいですね。それを毎朝3時に「& CHEESE STAND」の前までタンクローリーで届けてもらっています。店舗正面にミルクを受け入れるためのホース接続部分があるのですが、そこからポンプで工房まで吸い上げています。そして、5時から9時くらいの間に発酵を行って、ようやくチーズを練り始めます。発酵を行っている間にパッキングの準備をしたり、熟成チーズの仕込みといった作業を行います。ミルクが入ってくる量にもよるのですが、大体11時くらいに製造が終わるようなイメージですね。
ちなみに、1リットルのミルクからできるモッツァレラは1.2個くらいなんですよ。仮に500リットルのミルクが入ったら、製造できるモッツァレラチーズは600個なので、一日でできる量は限られています。」
――なんと、1リットルのミルクから製造できるモッツァレラチーズはこんなにも少ないのだ。
そしてここから、おんどとりをどのように活用いただいているのか伺った。
Q.Twitterでは低温殺菌時におんどとりを使用しているとtweetされていましたが、これはどういった工程なのでしょうか?
藤川氏「タンクローリーには冷却機能があって、生乳を5℃くらいの状態で毎朝届けてもらっています。その後「乳等省令(※)」に基づいて63℃で30分殺菌を行います。そこまで温度が上がる過程を記録として残しています。」
(※)乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)とは
食品衛生法に基づく厚生労働省令でミルク・乳製品やこれらを主要な原料とする食品について、その成分規格や表示の要領、容器包装の規格、製造方法の基準などについて定めたものである。
Q.おんどとりはどのようなきっかけで知っていただいたのでしょうか?
藤川氏「チーズ業界でおんどとりをお使いの方、結構多い印象なんですけど、オープン当初(2012年)にとあるチーズ工房さんへ見学で伺った時に「これいいよ」といった感じで紹介してもらったのがおんどとりでした。それがきっかけで今日までずっと使っています。当時はWi-Fiを搭載していなかった旧機種を使用していたので、PCとUSB通信ケーブルで直接繋いでデータを保存していました。今はTR-71wbを使っておんどとり Web Storageで温度データを管理しています。」
――オープン当初から永らくご愛用いただき、ありがとうございます。
Q.温度を測定する際、センサーはどの位置で測定するのですか?
藤川氏「センサーはチーズバット(※)の真ん中あたりで測定します。乳酸菌は63℃だと死滅してしまうので、冷却するためにチーズバットに水を引いて40℃くらいまで下げるのですが、その時の温度推移も記録して残しています。」
(※)チーズバットとは、生乳の低温殺菌を行ったり、発酵・凝乳・カッティング・ホエイ抜きといった製造工程を行う装置のこと。
二重構造になっていて、外側と内側の間の部分には水やお湯が入るようになっている。状況に応じて調整し、温度をコントロールする。
Q.チーズ製造における、温度の大切さというのはどんな所にあるのでしょうか?
藤川氏「65℃に達してしまうとミルクの組織が壊れてしまい、固めるための凝乳酵素を添加してもこれが効かなくなってしまいます。なので、そこの温度ラインを超えないように気を付けています。その逆に、もし仮に発酵時の温度が1℃でも下がった場合、それだけで発酵が弱くなります。製造工程にホエイを抜く作業があるのですが、この発酵が進まないと水分だけが抜けて固くなってしまうんです。このように1℃変わるだけでチーズの品質に大きく影響を与えますし、室温も気にしながら製造するので、本当にもう毎日が戦いです。」
では最後になりますが、おんどとりへのご意見やご要望があればお聞かせください
藤川氏「pHを測定することができたらいいなって思います!pHを測定して記録できる機器はないのですか?」
pHを測定する機器はありません。ただ、お使いいただいているTR-71wbとは別シリーズでRTR500Bシリーズというものがあります。これはデータ収集機とデータロガーをセットで使うものなのですが、RTR505Bというデータロガーは専用モジュールを付け替えることで「4-20mA」「電圧」「パルス」を測定できます。もしお使いいただくpH測定機にこういったアナログ出力が備わっていれば、そこへ繋いでデータを受け取って記録することができます。このシリーズもまた、おんどとり Web Storageに対応しています。
――お渡しした製品カタログを眺めながら、藤川氏は興味深そうに頷きながら話を聞いてくださった。
おわりに
渋谷から出来たてのチーズを提供する、その支えとしておんどとりを活用いただき、本当に誇らしく思う。
実際にお使いいただいてる現場へ訪問し生の声を伺うと、センサの汚れやすい部分があったり、測定したい項目が様々だったりでとても興味深かった。
これまでおんどとりは時代の変化に合わせて進化してきたが、これからもユーザ様にとって使いやすい、シンプルなものづくりにこだわった製品を届けたい。