Yukichi

株式会社大共ホーム

※記事中の組織名、拠点名、部署名などは記事公開当時のものです。

ある日 X (旧Twitter) のフィードを眺めていると、あるハウスメーカー様の投稿が目に留まった。投稿された動画の冒頭では電池交換中であろうおんどとりがチラッと映り、次の場面になると建築物の温度・湿度と思われるデータを反映させている様子が映し出されている。この投稿を拝見する限り、独自のシステムにおんどとりのデータを取り込んでいるように見えた。一体どんな使い方をされているのか。早速、こちらのハウスメーカー様に問い合わせ、取材を申し込んだところ、快く承諾していただいた。私たちは岩手県にある株式会社大共ホームの橋本社長の元へ伺った。

日付 2023年10月30日
訪問先 株式会社大共ホーム様
使用機器 RTR-500AW・RTR-502・RTR-503
使用目的 温湿度データを蓄積し、住宅性能向上・問題点の発見に活用

早速ですが、大共ホーム様についてご紹介ください。

橋本氏
私たちは「温もりに還る家」をテーマに岩手県で高断熱注文住宅を提供させていただいています。高気密・高断熱な住宅を提供するには日々の技術開発と職人による施工技術が不可欠です。特に断熱性能に関しては様々な状況を想定して実験し、データを録っています。また、弊社には予め決められたデザインパターンがありません。間取り・インテリアに関する要望を各コーディネーターがヒアリングしお客様が住みたいイメージを実現します。そして私たちは使用する素材にもこだわりを持っています。こうしたこだわりを持つことによって、より高い断熱性能を持つ注文住宅の提供を実現させています。

素材についてですが、具体的にどのようなこだわりがあるのでしょうか?

橋本氏
弊社は特に窓やサッシにこだわっています。年間を通して外気の影響を受けずに快適な暮らしを実現するには断熱性能がとても重要になります。例えば冬に暖房をかけた場合の熱の流出率は、外壁や屋根と比べると窓から逃げていく比率が圧倒的に大きくなります。多くのハウスメーカーはトリプルガラスを採用し、それを売りにするところが多いので、どこも大きな差はありません。弊社もトリプルガラスを採用していますが、特に窓サッシにこだわりを持っていて、ドイツ・オーストリア・トルコの輸入品を採用しています。また、サッシの施工方法にもこだわっており、おんどとりを使って日々断熱性能を研究しています。

――海外と国内のサッシにはどのような違いがあるのでしょうか?

橋本氏
海外の窓サッシは国産のそれと比べて複雑な内部構造になっており、熱が逃げにくい造りになっています。また、海外と日本ではサッシに対する考え方が違います。国内では今でこそトリプルガラスが普通になっていますが、ここ数十年で広がりを見せてきたという感覚ですね。ドイツでは90年前からトリプルガラスによる断熱を採用しているし、数値化して断熱性能の根拠を出しています。私たちも、海外の先端的な情報を掴んだらその技術を取り入れる前に温湿度データを録って、根拠を裏付けした上でお客様に住宅を提供させていただいています。

この後私たちはモデルハウスへ移動し、設置いただいているおんどとりをご紹介いただいた

おんどとりを設置されている場所と設置の目的を教えてください。

橋本氏
おんどとりはモデルハウスと弊社の工場内に設置しています。このモデルハウスの外壁は一見ただの壁に見えますが、この壁の三か所は異なる内部構成になっています。実験も兼ねているので、温度を比較できるようにわざとこういう構成にしています。また、この壁では窓周囲のヒートブリッジ(※)をテーマに実験を行いました。ヒートブリッジは今後日本でテーマになってくると考えています。その時に備え、温度比較ができるように窓の施工方法を場所ごとに変えて温度を記録しています。RTR-502 をボックスの中に入れて、温度センサは壁の中に埋め込んでいます。

湿度のデータも確認したいので別のボックスには RTR-503 を入れて設置しています。温度状態ばかりに意識が向きがちですが、作り手としては湿度がどういう状態であるかも知っておかなければなりません。もし壁内結露が発生するとカビの原因になりますし、住む人の健康や住宅の寿命に影響を与えます。この温湿度センサも壁の中に入れて測定しています。

(※)ヒートブリッジとは
熱橋とも呼ばれる。外壁・内壁の断熱材が入っていない部分は熱を伝えやすく、結果として断熱性能の低下を招く。

他に地中熱による温度変化を実験するために建てた小屋があるという。今回はこちらもご紹介いただいた。

橋本氏
最初におんどとりを設置して実験を行ったのはこの小屋です。データを比較する必要があるので、小屋を2つ建てました。クールチューブ(※)という地中熱を利用した換気システムがあるのですが、この仕組みを利用した時に室内の温度がどれくらい変わるのか、そのデータを録りたくてこの小屋を建てたんですよ。当初はロール紙に記録するタイプの温度計を使用していたのですが、このタイプの温度計はインク切れやロール紙の交換といった手間がありました。なによりも大変だったのは記録したデータを表計算ソフトに打ち込む作業です。その後おんどとりを導入したのですが、当時、無線通信を使って親機が複数の子機からデータを吸い上げるというシステムは画期的だと思いましたよ。過去の不便さも知っているのでデジタルで記録が残せるのは本当に助かっています。

(※)クールチューブとは
年間を通して温度が安定している地中にチューブを埋め、このチューブに空気を通して室内に送り込むシステムを指す。例えば、夏場に30℃以上になった外気をチューブに通すと、地中で冷やされた空気が室内に送り込まれ、逆に冬場は冷えた外気をチューブに通すと、地中熱で温められた空気が室内に送り込まれる。

取材のきっかけとなった X の投稿では、おんどとりと貴社のシステムを連携しているように見えました。このシステムは貴社で開発されたものなのでしょうか?

橋本氏
弊社で開発したシステムではありません。パートナー企業であるシステム会社に要件を伝え、Androidアプリを開発していただきました。その要件とは、設置場所ごとの温度・湿度を監視できること、遷移グラフを画像処理できること (ブログ投稿用)、Excelデータ (データ分析・研究用途) として出力する機能を持つことでした。そして測定した全ての拠点の温度・湿度データは、随時自社サーバのデータベースに蓄積されています。

蓄積したデータはどんなことに活用されているのでしょうか?

橋本氏
お客様に断熱効果を実感していただくために展示会やモデルハウスでリアルタイムの温度・湿度を公開しています。特にモデルハウスでは、居住空間の他に屋根裏・床下・内部施工の部材間の温度差・湿度差などをモニタリングできるようにしています。弊社の工場実験設備にもおんどとりを設置していて、断熱材の違いによる効果も確認できるようになっています。

おんどとりとシステムを連携させるにあたって、難しかったことはありますか?

橋本氏
以前はWebサーバ機能を持ったネットワークサーモレコーダーミニベース RT-22BN (※) を使用していました。当時は格安SIMなどない時代だったので、施主様宅に機器を設置させていただく際には回線の選定に苦労しました。「おんどとり Web Storage」もサービスを開始しておらず、RT-22BNのブラウザでのビューア機能を使って温度・湿度データを抜き出し、自社のデータベースへ格納する仕組みを構築しました。現在使用しているRTR-500AW (販売終了)になってからはデータをFTPサーバへアップロードできるため、データを蓄積しやすくなりました。現在はタブレット + 格安SIM の構成を通して RTR-500AW からデータを送信させています。この仕組みを使用して、おんどとりを設置させていただいたお宅の温度データを弊社のウェブサイトに掲載したときは、もう凄い反響でしたよ。同業者を含め毎日問い合わせが来ました。

あとこれは余談ですが、温度状態を弊社のウェブサイトに掲載させていただいた後、施主の奥様が出張先の東京から自宅の温度を見ていらっしゃったそうです。そうしたら真冬なのに室温が 28℃ になっている状態で、火事でも起きているんじゃないかと心配になってすぐに旦那様に電話をかけたところ、旦那様は7,8人の仲間と飲み会をしていたんだそうです。お酒を飲んだことによってそれぞれの体温が上がり、その熱気によって室温までも上昇したという話を聞いた時は笑ってしまいました。

――人が熱源になっていたということでしょうか。それだけ断熱性が高いということが証明されたエピソードですね。

橋本氏
断熱性が高い環境で小さな熱源があればそれだけで室温はグッと上がります。外気が氷点下であっても、この例のように断熱性の高い空間に人が集まって酒を飲めばその体温が熱源となって空間の温度を上昇させるんです。

(※)エスペックミック株式会社様が販売されていた T&D のOEM製品。現在は販売終了。

最後におんどとりに対する要望があれば教えてください。

必要なデータを記録することができるので大変満足していますが、強いてあげるとするなら子機の電池の価格ですね。こんな小さな電池(※)だけど、値段が少し高いかなぁと思ってしまいます。今日も取材を受ける前に3台の子機の電池交換を行いましたよ。

――この件についてはXでも投稿されていましたね。貴社がお使いになっているRTR-502という製品は、-40℃や+80℃のような過酷な温度環境や、振動や衝撃が加わることが多い輸送の現場で使用されることも想定した設計になっています。そんな環境であっても安定して動作させるために、相応の性能を有するLS14250という電池を採用する必要がありました。貴社がお使いになっているCR2という市販電池で代用することもできますが、電池の性能を考慮すると、0℃以下の環境であったり振動が加わる輸送用途でお使いになることはお勧めしません。このCR2電池を使って、何度も盛岡の真冬の温度を測定してこられたとのことですが、こういった注意点があるということを念頭に測定を続けていただければと思います。

(※)ティアンドデイ推奨の電池と代替可能な市販のリチウム電池 CR2 を使用。

おわりに。

インタビューの中で「自分たちは高断熱住宅を提供する立場にあるので、事前に実験した上で、自分たちが提供するものが本当に良いものなのかどうかを把握しておきたい。」と仰っていた。その言葉のとおり、壁の内部構造を調整して各壁ごとの温度データを録ったり、小屋を建てて実験を行ったりとその研究熱心さにはただただ驚くばかりであった。また、「岩手県の冬は厳しいけど、こんなに暖かい暮らしができるんだよ。」という言葉がとても印象的で、岩手県内に住む多くの方々に暖かな住環境を提供したいという優しい思いが伝わってきた。

橋本社長は新しいことを積極的に取り入れる方で、特に SNS を利用した情報発信に力を入れている。X の他に Instagram も利用されていて、SNS の勉強のために個人で作ったアカウントから投稿したリールはなんと3日で100万回も再生されたものもあるのだという。この再生回数は、橋本社長の研究熱心さによるものだと思う。Instagram は、若い層にアプローチしたいという橋本社長の戦略から始めたそうだ。20代前半の方々が今すぐ家を建てることがないとしても、あと5年くらい経てば彼らがユーザー層になることは間違いないだろうと考え、この世代に自分たちの存在を届けるために SNS を活用している。いかにしておすすめ表示されるかについても研究されており、お話を伺うだけでこちらもワクワクさせていただいた。この度は取材にご協力いただき、ありがとうございました。

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ライタープロフィール

Yukichi

Yukichi

東京Base所属。 星の写真撮ったりしてます。