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Yosuke

羽田市場株式会社

私の趣味は愛車のステップワゴンで車中泊しながら全国を旅する事です。
海なし県の信州に生まれ育ったゆえ、特に海沿いをドライブする事に憧れ、たとえ遠回りであろうとそのような道を好んで走ります。
そんな海沿いドライブの楽しみと言えば、漁港併設の食堂であったり、その土地の回転寿司で新鮮な美味い魚を食らう事です。

和歌山県那智勝浦の生マグロ、青森県鯵ヶ沢のヒラメ、富山の寒ブリや、伊豆の金目鯛。
自分の足で地方を回ったからこそ、新鮮で、絶品な、何度でも食べたい魚介グルメにいくつも出会えました。
そんな魚介グルメを味わうたびに「これがもっと手軽に食えたらな…」と常々思っていたのですが、実は、そんなとびきり新鮮で美味い魚が東京駅で食えます!

今回は、地方で獲れた魚をその産地と変わらぬ鮮度で首都圏に流通させる仕組みの仕掛け人、羽田市場株式会社の野本良平代表取締役社長にお話を伺って参りました。
インタビュー中、野本社長は「食品流通に関しては自分が日本一詳しいと自負している。」とおっしゃっています。

日本一食品流通に詳しい男が、新鮮で美味い魚を安く安全に流通させるために重要視する事、それは温度管理でした。

日付 2020年10月
訪問先 羽田市場株式会社 羽田空港オフィス
使用機器 TR42、TR-72wb
使用目的 魚介類の輸送中の温度モニタリング

Q.まずはじめに羽田市場についてご紹介ください

「この会社を創業したきっかけは、前職の回転寿司チェーンや居酒屋チェーンで働いている時に朝獲れ魚の価値に気づいた事でした。
朝獲れの魚を出すお店を企画し、小型の定置網を自分達で買い、漁師さんを雇い、その魚を空輸してお客様に提供したらこれがとんでもない大当たりでした。」

「この時、朝獲れの魚は絶対に売れると確信したんです。」

「ただ問題もあって、早朝に地方で水揚げされた魚を、漁師さんが朝9時に羽田に着くように飛行機で送ってくれても、中間業者を介して自分たちの手に渡されるのは11~12時頃でした。もし飛行機が少しでも遅れたりすると、13時とか14時とか…。」
「これじゃ羽田から距離が遠いお店だと当日の営業に出せないんです。」

「なので結論として、自分達の手で、羽田空港の中で全てをやらなきゃダメだと思ったんです。」

「地方で獲れた魚を、鮮度の良いまま、その日のうちに首都圏で提供する事が出来れば、地方では価値が無い魚にも価値が生まれます。
例えば大分県の国東で100円しか値がつかない魚が、東京では500円にも600円にもなるんです。」
と、羽田市場株式会社の野本社長は話す。

――もし圧倒的な鮮度という付加価値を付けた魚を首都圏で高く売る事ができれば、地方の漁師さんからも魚を高く買う事ができる。
この一次産業従事者の所得向上、地方創生こそが野本社長が掲げるモットーだ。

野本氏「旧来、魚は中央卸売市場を介して売買される事が多いですが、水揚げされてから2日も3日もかかってようやく一般の店頭に並ぶ事がざらです。
漁師さんがせっかく早朝から海に出ているのに、これでは魚を獲った意味がない。それにいくつもの仲卸業者が入って漁師さんの顔が全く見えていないから簡単にキャンセルしてくる。漁から戻ってきてみたらFAX一枚でキャンセルなんて事が日常的に起こるんです。」

「命がけで魚を獲って帰ってくる漁師さんにキャンセルなんて言葉はないんです!」

「一時期、アドバイザーという立場で複数の企業の顧問をしていましたが、こういった漁師さんの窮状というか、がっかり感を無くすためには、自分が「現場」で流通をコントロールしなければならない、と思い立ち2014年10月にこの羽田市場をスタートしました。」

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Q.羽田市場のビジネスモデルや、特徴となる強みを教えてください

野本氏「全国各地の漁港から、飛行機、新幹線、特急列車、高速バスなどを使って魚を首都圏に直送しています。
朝に水揚げされた魚は最短6時間程度で店頭に並びます。」

――TVで拝見しましたが、御社は中央市場を介さず、ダイレクトにお店や消費者に新鮮な魚を提供されているんですよね?

野本氏「基本的には中央卸売市場を通さずに、生産者とお店や消費者をつなげていきます。」

「この会社を創業した当時、魚の取り扱いと言えば築地市場が圧倒的でしたが、築地に勝つためには築地が出来ない事をしないといけない。それが空輸だったんです。漁師さんからは適切な金額で魚を買い取り、より良い商品を安い値段で消費者へ提供する。とは言っても、全漁連、豊洲中央卸売市場とも取引があります。場面ごとに最適な流通を構築していく。私はこれを「流通設計」と呼んでいます。小さい時から家業である食品加工会社を手伝っていて、その頃から合わせれば食品流通一筋50年です。だから私、食品流通に関しては日本一詳しいですよ。自分より詳しい人間には出会った事がない。だからこそ、この設計力が最大の強みです。」

――まさに御社が掲げる、消費者、生産者、流通業者の三方良しですね。

野本氏「でも実は、初夏にコロナウィルスの影響で会社が潰れかけたんですよ(笑)」
「あの時期は魚が売れなくて、全国の漁師さんから「野本さん助けてくれ」って言われて大量の魚を買い上げて在庫したんです。そうしたら倉庫が一杯になっちゃって…。」

「そこで在宅勤務中にECサイトをオープンしました。少しでも在庫を減らそうとして。」
「そうしたらコロナの巣ごもり需要の影響もあってか、たくさん買っていただけて。あの時にECサイトを開設していなかったら今頃はインタビューに答えている場合じゃなかったですよ(笑)」

「今、海洋を取り巻く環境は激変していて、どんどん魚が獲れなくなってきているんです。海水温の上昇や、まぁ一番の問題は獲りすぎです。サンマなんて今後は高級魚になっていくと思いますよ。」
「だからこそ、出来る限り流通を簡素化し、消費者により良い物を届けていきたい思っています。これが我が社の考える最終形です。」
「このタイミングでECサイトを開設できた事は良かったのかなと思っています。より消費者に近づく事ができました。」

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Q.おんどとりはどのような用途でお使いいただいていますか?

野本氏「新規顧客との取引開始時や、新規のルートを開設する時の輸送テストでは毎回必ずおんどとりを使っていますよ。」

「これ、MYおんどとりです!」

――野本社長専用機ですか?

野本氏「そう。常に持ち歩いています。」

「魚を新幹線や高速バスを使って輸送する際、外気の温度湿度、魚の表面温度、魚の芯温をタブレットからBluetooth通信を使ってモニタリングしています。
魚は発泡スチロールに入れて氷と一緒に輸送しますが、その発泡スチロールの外側にTR-72wbを取り付けて外気温と湿度を計測します。また、TR42を使って魚の芯温と表面温度を計測し、それぞれのデータの相関をモニタリングしています。」

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野本氏「特に、活魚を運ぶ際、冷やしすぎると魚は死んでしまうし、温度が高いと魚は暴れるんです。暴れて排泄物を出すと、魚は自分が出した排泄物で弱っていくんです。」
「以前7月末に高速バスのトランクルームを使った輸送テストを行いました。テスト前は、トランクルーム内の温度が60℃くらいまで温度が上がる事を予想していたんですが、走行中に座席からタブレットを使ってモニタリングしていたら、意外にもトランク内の温度も座席と大差ない事がわかったんです。室内の空調が効いてくると、トランク内の温度もググっと下がってくるんです。ある程度は魚の温度が上がる事を想定していましたが、このテストの結果、真夏でもそんなに氷の量がいらない事がわかりました。」

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野本氏「魚を輸送する際の温度は10℃以下が理想です。もっと言えば4℃以下で保ちたい。」
「もし飛行機で運ぼうと思ったら氷の重さもそのまま運賃に乗っかってきます。氷は多くても少なくてもダメ。温度をしっかりとモニタリングして、適切な氷の量を見極めた上で温度を維持する事がとても重要なんです。」

Q.では、おんどとりを使い始めたきっかけを教えてください

野本氏「えっ、昔からずっと使っているから覚えていないな。実家が真空調理の総菜メーカーをやっていて、当時からおんどとりは必需品だったし。最初からこれだった。ずっと使っていますよ。気づいた時にはおんどとりを使っていたって感じ。言わば「勝手知ったる、お袋の味」みたいな。」
「何度も失くして、その度に新しい物に買い替えてますけどね。(笑)」

「おんどとりはどんどん進化してますよね。にも関わらず操作がシンプルなのが良いですね。」

――ありがとうございます。機能は進化しても操作はシンプル。これこそ弊社の製品開発ポリシーの「肝」なんです。

Q.おんどとりの使い勝手はいかがですか?

野本氏「新幹線でも高速バスでも、自分の席からBluetoothを使って常時温度データが見られる事が便利でいいですよね。」

「Bluetooth機能付きは画期的ですよね。魚の輸送にはある程度のノウハウがあるつもりだけど、やはりリアルタイムで温度が見られる事でとても助かってます。」
「今年の夏、特急列車で魚を運ぶという初めての試みで、伊豆の踊り子号を使って金目鯛を運んだのですが、静岡県内で外気温が40℃を超えるような気温の日でも、箱の中の金目鯛の温度はそんなに上がらなかったんです。」
「今までは、魚が到着した時に放射温度計で表面の温度だけを計測していましたが、これ(TR42)を使えば、内臓や腹の中の温度までリアルタイムで見ることができます。」

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野本氏「以前、鯖の朝獲れもやっていたんですが、品質が落ちてお客さんからクレームが出た事があったんです。そこで、おんどとりを使って温度を測ってみたら、表面は冷えていたんだけど、内臓まではしっかりと冷やせていなかったんです。こうなると、鯖は骨から身が剥がれ落ちるんですよ。鯖だけに起こる現象です。それまでは朝獲れにこだわっていたけど、鯖は8時間以上しっかりと冷やしてから出荷した方が良い事がわかりました。鯖の生きぐされ、って言うくらい鯖は鮮度の劣化が激しいんですよ。鯖は、運ぶ前に時間をかけて内臓までしっかり冷やすことで3日くらいは品質を保つことができるんです。朝獲れの方が聞こえは良いけど、それがわかってからは、鯖はとにかく運ぶ前にきっちり冷やすようにしています。」

「この業界、勘で職人的にやる事が多かったけど、おんどとりを使って内臓の温度までしっかりと測ったからこそわかった事なんですよ。」

――Bluetoothを使い、輸送中に、自分の席から気軽に温度をモニタリングする。これこそ、弊社がBluetooth搭載製品に思い描いていた使われ方の一つです。

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Q.もしあれば、今後のおんどとりへのご意見やご要望などお聞かせください

野本氏「今のところ不満な点は無いですよ。」

「Bluetooth通信は本当に助かってます。画期的でとても便利。」
「ただ、ひとつ挙げるとしたら、異なる機種のデータをタブレット上で重ね合わせて見られたらな。機種ごとにアプリを切り替えるのが面倒だし、複数の機種のデータを全部重ねてモニタリング出来たらより便利かな。」

野本社長が空港内に羽田市場のセンターを開設しようとした時、あまりに前例の無い事ゆえに猛烈な逆風にあったそうで、「空港の中で包丁を扱うなんてそんなバカな話があるか。」「空港内に水産加工をするための排水設備なんか無い。」などと言われたそうだ。
しかし、野本社長は決してあきらめなかった。「地方創生」をキーワードにして時の担当大臣を説き伏せ、羽田空港の中に魚の加工センターを開設するという前例の無い事業を成し遂げたのである。

その結果、冒頭の通り、産地と変わらぬ鮮度の、極上の魚を使ったお寿司が東京駅で食べられるようになったのだ。
このインタビューの前、東京駅構内にある「回転寿司 羽田市場」で昼食を取ったのだが、オーダーしたのは、鯵ヶ沢から届いた新鮮なヒラメと、北陸から届いたばかりのまさに「肝」がキモのカワハギだ。
どちらもキッチリと温度管理された極上のネタだった。

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ライタープロフィール

Yosuke

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おんどとりismライター3号でございます。