※記事中の組織名、拠点名、部署名などは記事公開当時のものです。
今回の取材に至った経緯
今回の取材を快諾していただいた松本微生物研究所 忠地真吾様と、本記事を執筆する弊社デザイナー 小島は「音楽」という共通の趣味を通じた10年来の友人なのですが、ライフスタイルの変化や世界的に流行した感染症の影響で会う機会が少なくなり、SNS上でお互いの日常を見知る関係がしばらく続いていました。そんな中、昨年弊社が参加した 農業WEEK 2023 にてブース設営をしている際、
農業WEEK 2023の様子は こちらの記事 をご参照ください。
同じく展示会に参加していた忠地さんと会場付近で約6年振りに再会を果たしました。そこでお互いの近況報告をしていると、松本微生物研究所様で弊社のおんどとりを活用いただいていることを知り、その場でおんどとりイズムの取材交渉を行い今回の取材に至りました。そんな背景も感じていただきながら、今回はミクロの世界を扱う領域で活躍する「おんどとり」の事例をご紹介したいと思います。
日付 | 2024年5月15日 |
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訪問先 | 松本微生物研究所様 |
使用機器 | TR-71U、TR-71S、TR-72S |
使用目的 | 微生物資材の研究開発 |
Q.まず最初に、御社の事業についてご紹介をお願いします。
忠地氏
当社は長野県松本市を拠点に、松本微生物研究所として1980年に設立され今年で45期目を迎えます。大きな軸となる事業として、農業・環境・水産・緑化などの様々な分野で、微生物の持つ多才な能力を有効利用した微生物資材の研究開発や製造・販売に取り組んでいます。
その中でも特に注力しているのが農業分野でして、昨年の展示会にも出展させていただいたのですが、『アーバスキュラー菌根菌(AM菌)』※1 という植物の根のなかに共生して、土中の水分や肥料成分を植物に受け渡す働きをする微生物(以下「菌根菌」)の研究開発を行っています。
植物の根に共生した菌根菌は、土壌中に張り巡らした菌糸から植物の根では吸収しにくい土壌中の養水分(特にリン酸)を植物に供給し、代わりに植物からは光合成産物由来の糖類を貰って共生関係を築きます。当社はラボを持っているので、菌根菌の培養から資材開発・販売まで、一貫生産体制を構築しております。近年では協力先の大学や企業と連携をしながら菌根菌の新たな培養技術を用いた実用化に取り組んでいるところです。
※1 約4〜5億年の太古から植物の根に共生して生きてきた菌類(カビ) 海洋植物が陸に進出する際に根の代わりに養水分を供給して、その上陸を助けた微生物と言われる。
――ネットの記事を拝見したのですが、共同研究は信州大学さんとされているんでしょうか?
忠地氏
はい、その通りです。菌根菌研究をされている教授が信州大学に在籍されていることもあり、共同研究をすることとなりました。これまでの菌根菌培養というのは少し特殊で、直接植物の根に共生をさせ育成しながら菌の培養をしていきます。培養時の温度条件を整えたり、物理的にコントロールしながら培養条件に変化を加えたりする際に厳密な温度管理を行う必要があり、その際に御社製品のおんどとりを活用させていただいています。
信州大学さんの持っている技術は、シャーレ内の小さいスケールで従来の培養方法と同様の純粋培養を可能とするものです。その技術を活かし、当社株を使った製剤化に共同研究で取り組んでおります。
インタビューに同席していただいた猪野さんは、共同研究が始まった時に信州大学に在学中で、マスタークラス卒業後に松本微生物研究所に入社されたそうです。
Q.微生物の産業利用というのは具体的にどんなものがあるんでしょうか?
忠地氏
様々な利用方法があるのですが、水産分野でいうとクルマエビ養殖時の生育環境改善による病害対策、環境分野では浄化槽の脱臭・汚泥の分解、緑化分野ですと樹木医が管理する著名な庭園などの保存樹木の自生回復などといった利用方法があります。
弊社では、それぞれの問題に対する機能を持った微生物材を持っていますので、各課題に適応した資材の製剤化を行っています。
ご説明を聞いていただいてお分かりだと思いますが、非常にニッチな業界であり微生物研究開発を扱うのは国内を見てもごく少数の企業に限られているんです。
――聞き馴染みのない利用方法でしたが、大変重要な分野活用だと感じました。そのような微生物資材は御社が直接販売されているんでしょうか?
忠地氏
元々はBtoCモデルで農家さんなどに微生物資材の供給をしておりましたが、近年では当社が培養した資材をメーカー様に供給するようなBtoBモデルにシフトしております。
――菌根菌は、Ph値の調整など土壌改良の機能があるんでしょうか?
忠地氏
菌根菌には土壌改良機能は備わっていません。作物の生育に欠かせない土壌中の養水分(特にリン酸)の吸収を助ける働きをしてくれます。土壌中には未利用の自然由来のリン酸成分が存在しているんです。私たちはそれらを菌根菌などを使って作物へ供給することを推奨しているんです。
日本はリン酸を多く消費する国なんですが、リン酸はいわゆる枯渇性資源で、十数年以内には枯渇するとまで言われており、そういった背景もあってリン酸肥料の価格が高騰しはじめています。
菌根菌を活用することで減肥が可能となり効率的な農業とリン酸の資源枯渇問題や、不安定な世界情勢による肥料価格高騰に対する課題解決ができると考えています。
Q.御社では現在どのおんどとりを使用していますか?
忠地氏
現在はTR-71U、TR-71S/72Sの3機種を使用させていただいております。私が入社する前から導入されていて、かなり長きに渡って愛用させていただいております。日頃当たり前のように使用しているのですが、これらは結構古いモデルなんでしょうか?
――ご愛用いただきありがとうございます。TR7シリーズは弊社主力製品なのですが、何回かモデルチェンジをしており現在お使いいただいているのは4世代前、5世代前に当たるモデルになります。
忠地氏
そうなんですね(笑)これまで大きな故障もなく評価試験・研究などに問題なく現在も活用させていただいてます。すごくタフな作りになっていますよね。
Q.御社がおんどとりを導入した理由、決め手となったポイントは何でしょうか?
忠地氏
当時を知るメンバーからは、「おんどとりは農業試験場や大学などの研究機関でされている事例・実績があり、そういった場所で使われているならその記録データは信頼性が高いのではないか」という判断から導入を決めたと聞いています。
――実際におんどとりを使用してみて、特に満足している点、または気になる点はありますか?
忠地氏
まず挙げられるのは、長期的に使用しても故障が少なくデータ測定ができる”タフさ、堅牢性”です。あとは個人農家さんでも手に取りやすい価格設定も魅力に感じているポイントの一つですね。約20年前に導入した製品が現在でも問題なく使えているのはすごいことですよね!このコストパフォーマンスは他の製品には無い長所だと感じています。
弊社ではTR-71U、TR-71S/72Sを使用していますが、最新モデルも是非使ってみたいと検討をしているところです。現在、測定データは機器をUSBでパソコンに接続して吸い上げて、専用ソフトウェアでインポートをしているのですが最新モデルではどのようにデータを扱うことができるんでしょうか?
――現在と同様のデータ記録方法もできるのですが、LAN に接続させれば おんどとり が記録したデータを弊社の無料クラウドサービス「おんどとり Web Storage」に自動アップロードさせて、そのデータを遠隔で確認することも可能です。
忠地氏
すごくいいですね!弊社にもハウスがあって微生物培養や試験を行っているんですが、ハウス内の温度管理をする必要があってかなり手間がかかるんです。それが自動的に記録できて遠隔で確認できるのは大変魅力的です。
Q.今後、どのような機器や技術が必要だと感じていますか?
忠地氏
農業の現場ですと土壌分析をする必要があります。それには理化学性・物理性・生物性という分析手段があるんですが、理化学性で分析をするケースが圧倒的に多くかなりの時間を要するので、例えば肥料濃度・成分をセンサー直挿しでモニタリングできる技術があればすごく革新的だなと思っています。
――肥料濃度・成分を計測する機器自体は存在するのでしょうか?
忠地氏
はい、弊社でも測定機器は保有しているのですが、採取した土壌を測定条件に適した状態に処理(風化・乾燥)をしてから測定しなければいけません。そこをリアルタイムにモニタリングできれば、環境条件によって土壌にどんな変化が起きているか把握でき、作物にあった土壌の判断がしやすくなるのではと考えています。
――弊社製品に期待することはありますか?
忠地氏
微生物培養の温度モニタリングに用いるオートクレーブ滅菌に対応可能なセンサーですかね。
微生物培養は滅菌をしてから培養を開始するのですが、培地に入れる温度センサーの滅菌が完全でないと雑菌が増殖してしまう可能性があります。オートクレーブ滅菌は約120°Cの高温処理を30分間持続させて圧力を加えて行っています。その滅菌処理に耐えうるセンサーがあればいいなと思っています。
滅菌処理ができれば微生物の培地に直接センサーを差し込んで内部の温度測定ができるようになるので、培養条件を整えやすくなり効率的な微生物研究が実現できるのではと考えています。
あとこれは製品の機能についてではないですが、おんどとり製品の使い方についてのオンラインセミナーが開催されていたら是非参加してみたいです。メーカー担当者さんと実際に言葉を交わしながら製品仕様の理解度を深められたら面白いと思います。
――Youtubeチャンネルで製品説明動画を公開したりしているんですが、ユーザー様を募集する形でのオンラインセミナーは実施したことがないので、前向きに検討したいと思います。
最後に培養試験が行われているハウスを案内してもらいました。
Q.こちらのハウスでは何の試験をしているんでしょうか
忠地氏
ここでは企業様からの開発依頼や、海外の微生物資材を仕入れる際の評価依頼など、ご要望に応じた試験を実施しています。
このエリアでは現在、イチゴの育成をしています。 企業さんからの依頼で、微生物や培土の条件をつけて栽培方法の試験をしています。
――ここではどんな項目を測定しているんですか?
忠地氏
試験時、作物に散水する水温が上がると溶存酸素が減り根の生育が悪くなってしまいます。なので水温を一定温度以下に保つように温度管理をしています。また、施肥している液肥自体の温度も作物の生育に大きく関わってくるため厳密に温度管理を行っています。
Q.最後に、御社の理念に「環境との共生」という表現がありますが、具体的な取り組みがあればお聞かせください。
忠地氏
具体的に申し上げるのが少し難しいですが、昨今SDGsという言葉が一般的に認知されていると思います。当社はもうおそらく45年前からそれに近いようなビジネスモデルをずっとやってきたのかなと。自然の摂理を尊重して微生物の働きを活かした事業で、まさに菌根菌と一緒で自然と共生するよう取り組んでいます。いい言葉が見つからないのですが、そこに何か貢献していければ。という思いがあります。目に見えないものを扱っているので、一歩間違えれば怪しい製品と思われる可能性もあります。ですので、当社はとにかく真摯に、信頼性高く研究に向き合い事業を展開していく。そういったところを大切にしています。
――お話を聞いていて、御社は自然のサイクルを作っている、そんなイメージを抱きました。土壌という自然のサイクルの始まりから入り込むことで、環境に大きく貢献していらっしゃるのではと感じます。本日はお話をお聞かせいただきありがとうございました。
これまでの活用事例にはない特殊な微生物研究の領域で活用されているおんどとり。
ティアンドデイ松本本社から車で5分というほど近い場所で、約20年に渡り微生物研究に力添えできていたことを光栄に思います。
取材を通じて、微生物資材の製剤化試験には厳密な温度管理が要求されるということを知り、私たちの製品が担う役割の重要性を改めて認識しました。 今後も確かな記録データの提供を続けていこうという思いが一層強まります。
また筆者は、作物と共生して息づく菌根菌を、ユーザーさんの環境に順応し温度データを提供するおんどとりの姿と重ね合わせ親近感を覚えました。長野県松本市に拠点を置く企業同士、これからもサポートし続けてまいります。
忠地真吾様、猪野晃司様、スタッフの皆様、この度は取材にご協力いただき本当にありがとうございました。
松本微生物研究所様
松本微生物研究所様Website