※記事中の組織名、拠点名、部署名などは記事公開当時のものです。
突然だが、皆さんは HACCP (ハサップ) という言葉を耳にしたことはあるだろうか。HACCPとは、Hazard (危害)・Analysis (分析)・Critical (重要)・Control (管理・制御)・Point (点) の頭文字をとった言葉で、食品の安全を確保するための衛生管理手法のことだ。2021年6月からすべての食品関連事業者に対して HACCPに沿った衛生管理が義務化された。
実は、おんどとりは HACCP に沿った温度管理においても活用されている。今回は食肉加工を行うなかやま牧場様の導入事例を紹介していきたいと思う。同社では、牛の飼育・加工・販売を一貫して行っている。このような一貫体制を取る企業は珍しく、業界ではなかやま牧場様が先駆的存在だ。同社ではおんどとりをどのように活用されているのか、広島県福山市の本社・加工場を訪問し、お話を伺った。また、普段スーパーマーケットで見かける精肉がどのように私たち消費者の元へ届いているのか、その過程も見学させていただいた。
日付 | 2024年10月17日 |
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訪問先 | 株式会社なかやま牧場 |
使用機器 | RTR500BW・RTR502BL |
使用目的 | HACCP に沿った温度管理 |
まずはじめに、貴社の事業内容についてお聞かせください。
岡本氏
弊社は1970年創業で直営牧場と協力農家で飼育された牛を食肉加工場で加工し、弊社直営のスーパーマーケット(※1)や全国のスーパーマーケット・量販店や有名レストラン・ホテル等に卸しています。直営牧場と協力農家全体で約9600頭の牛を飼育しています。飼育から加工、販売を一貫して行う企業は珍しく、このような事業体系はなかやま牧場が先駆けであると聞いています。お客様から良い評価をいただき、安心安全に対する信頼もございます。
(※1)福山市:7店舗・井原市:1店舗・倉敷市:3店舗に展開 (2024年11月現在)
――貴社の直営牧場は何箇所あるのですか?
岡本氏
直営牧場は3箇所あります。本社から約20分北に牧場があるのですが、そこで約7000頭を飼育しています。岡山県内には牧場が2箇所あって、笠岡市の牧場では約1300頭、真庭市内の牧場では約700頭を飼育しています。
――と畜も貴社で行っているのでしょうか?
小日向氏
と畜は公設のと畜場で行っていただき、枝肉の状態で本社加工場へ搬入されます。
――スーパーマーケットの他にどのような場所に出荷されているのですか?
岡本氏
都内のレストランやホテル卸にも出荷しています。試食や農場・工場を見ていただいた上でなかやま牛を選んでいただいています。「なかやま牛」というのは、弊社牛肉のブランド名です。
――神石牛というのもあるようですが、こちらもブランド牛なのでしょうか?
岡本氏
はい、神石牛も弊社のブランド牛の一つです。なかやま牧場では、出荷前8ヶ月以上独自の飼料を与え、独自の生産技術で育てた牛を「なかやま牛」と呼んでいます。そして、なかやま牛といったブランド牛の中に、神石牛(黒毛和種)・高原黒牛(交雑種)があります。
――牛に与えている飼料には、こだわりがあるのでしょうか?
岡本氏
弊社では独自の配合飼料を与えているのですが、トウモロコシの割合を6~7割以上にしています。トウモロコシを与えることで赤身のコクに深みがあり肉質が柔らかく脂が甘い牛になります。与える飼料で肉質が変わるので、飼料にはこだわっています。
――しっかりと管理した飼料を与えているのですね。ところで、ファームノートというものがあるようですが、これはどういった取り組みなのでしょうか。
岡本氏
牛飼いと言うのは昔から属人的に行ってきました。ファームノートの目的は、会社を永続するために属人化を防ぐ事と多頭肥育に対応し、安定した品質を担保するために牛を管理するクラウドシステムです。このシステムを使って多岐にわたる項目を管理しています。例えば治療履歴や牛舎の移動履歴といった項目をデータ化して、誰が飼ってもいいように同じデータを共有できる仕組みになっています。データ化したものを飼育や肉質の改善に活用したり、牛の増体率 (体重) を上げる際の対策に利用しています。
――ファームノートによる徹底管理が貴社の牛肉の品質を支えているのですね。
では、飼育した牛がどのような過程を経て消費者の元へ届くのか教えてください。
小日向氏
まず、飼育された牛は直営牧場からと畜場へ移動し、枝肉の状態となって本社加工場へ運ばれます。加工場では枝肉を解体、整形して部分肉という形態にしていくのですが、お取引先様の要望による形態への加工対応も行っています。また、部分肉の状態から更に加工して、焼肉用やステーキ用のような消費者様の元へ届く形態への加工も行っています。
――オーダーメイドのカットにも対応されているということでしょうか。
岡本氏
ほぼそれに近いですね。お客様ごとのご要望に合わせたカットに対応しています。それができるのは弊社の強みでもあります。
今回、貴社の加工工場内におんどとりを導入していただきましたが、データロガーを導入するに至った経緯を教えてください。
小日向氏
どの企業様も同じような状況かと思いますが、人手不足の解消や作業を効率化するために自動化を進めている風潮があると思います。特に温度管理は手作業で行っていたので、この作業をいずれなくしていきたいと考えていました。ただ、弊社の冷蔵・冷凍設備は壁が厚く、しっかりとしたつくりなので、こういった環境下で問題なく利用できるツールがあるのかわからず、導入に至っておりませんでした。しかし、ここ2年の間に弊社のIT化が進んで、改めて温度管理について見直そうという動きになりました。そんな時に T&D さんのおんどとりに辿り着きました。
――おんどとり導入前は人の手で温度管理を行っていたのですね。
小日向氏
温度管理が必要な場所に温湿度計を置いて、1日3回見回って手書きで記録していました。現在はおんどとりを導入したことで、この作業が自動化されましたし、データを自動で蓄積してくれるので作業の効率化にも繋がっています。
岡本氏
これまで1日3回しか記録していなかったので、その間にどんな温度変化があったのかが分からなかったんですよね。今は設定した記録間隔でデータを蓄積してくれるし、異常があれば警報メールで知らせてくれるのでとても助かっています。
――手動の温度管理ですと、目視した時は適正な値を示していても、その前にどんな温度推移があったのか分からないですよね。おんどとりで管理していただければ過去の温度推移を振り返ることができるので、そういった点も温度管理を自動化するメリットですね。
貴社では HACCPに基づいた温度管理を行っていると思いますが、HACCP とはどのようなものなのでしょうか?
小日向氏
HACCP は2021年6月に義務化され、食品に関わる全ての業者が対応しなければならない制度です。弊社は ISO22000 の認証を取得しており、HACCP に基づいた温度管理を行っています。そもそも一般衛生管理を行っていることを前提としており、そこを土台に HACCP が成り立っています。
――実際には、どのような管理を行っているのでしょうか?
HACCP には 7つの原則・12の手順といったものがあるのですが、その中に工程内の危害要因分析の実施 (リスク分析) という手順があります。このリスク分析の中には保管や輸送などの工程があります。保管を例にしてお話しすると、考えられる危害として微生物増殖というリスクがあります。これを抑えるために何をしなければならないか、という視点で考えると、まずは温度制御が必要になります。次にその温度制御をするためにはどんな設備や管理方法が必要であるかを考えていきます。製品を管理する環境や作業場の温度が適正な状態になっているか、これらを確認するために温度管理が必要となるのです。
――おおまかな流れとしては、原材料の受入れ・保管・加工・加工後の保管・出荷があって、その各過程の中で適切な温度管理が必要になるということでしょうか。
小日向氏
そうですね、その各過程の中に HACCP に沿った必要な管理手順があります。
――保管の過程において、微生物増殖リスクを挙げられましたが、他にも管理すべき項目はあるのでしょうか。
小日向氏
その他には品質管理ですね。適正な温度で管理していないと変色してしまいます。私たちは生肉を扱っているので、温度管理はとても重要ですね。
ここから私たちは白衣をお借りして おんどとりが設置されている現場と加工場を見学させていただいた。まず始めに目に入ったのは大きな枝肉だった。
昇降機のような装置に人が乗って枝肉を加工していくのですね。ここではどういった加工を行っているのですか?
小日向氏
ここでは、整形の時に出る背脂やお腹の中にあるケンネ脂という腎臓を覆うクッションのような大きな脂等を取り除く加工を行います。また、部位ごとにカットして次の過程へ流しています。
――この作業を機械化することはできないのですか?
小日向氏
個体ごとに大きさや形が異なるので自動化することはかなり厳しいです。もし行うことができてもロスが発生する可能性がありますので、現時点ではこの過程は人の手が必要です。
私たちは初めて見る枝肉の迫力に圧倒された。そして次の過程を行う現場へ移動した。
ここではどのような加工をしているのですか?
小日向氏
先ほどご覧いただいた枝肉を部位ごとに切り分けると、部分肉と呼ばれる状態になります。これをお取引先様へ発送します。また、この作業場ではステーキカットや焼肉カットといった加工も行います。ちなみに焼肉カットは自社の ECサイトでも販売しています。
――EC を通して県外からも購入機会があるのは嬉しいですね。東京に戻ったらECサイトを拝見します。
最後に移動した先は、氷点下に管理された作業場だった。
ここではどのような作業を行っているのですか?
小日向氏
加工後、出荷先別にラベリングされた牛肉の保管と出荷準備を行っています。過去に BSE という問題が起きたことをきっかけに、出荷される肉に個体識別情報をラベリングすることが義務化されました。
万が一、出荷された肉に問題があった時は、このラベルを参照すれば出荷元の情報に辿り着けるようになっています。これは牛トレーサビリティ法で定められています。
――何か問題が起きたらすぐに回収して、影響が広がることを防ぐために必要なのですね。枝肉の状態から私たち消費者の元に届くまでの過程を拝見することができ、大変貴重な経験となりました。加工場内を見学させていただきありがとうございました。
最後におんどとりを使っていただいている中で良いと感じる点や、T&D のサービスに対して期待することがあればお聞かせください。
※撮影のため、特別にボックスのドアを開けていただきました
小日向氏
製品を購入した後にアプリやソフトウェアを無償で提供していただけるのはとてもありがたいです。弊社はセキュリティ上の都合により おんどとり Web Storage を利用していないのですが、ローカルサーバソフトウェアの T&D Data Server も無償で利用できて、さらにデータの確認や警報メール機能も利用できるので助かっています。
――ありがとうございます。データの管理方法はお客様によって異なります。それぞれの環境に合う管理方法を選択できるという点もまた、弊社の製品が選ばれる理由の一つであると自負しています。では今後、弊社の製品に期待することはありますか?
小日向氏
大きく三つあるのですが、まず一つ目は、警報状態が継続している時に、その継続を通知してくれるといいなと思います。おんどとり Web Storage を利用していれば、いつでも現在値を確認できるので、警報発生後の温度推移を確認できますが、弊社は T&D Data Server を利用しているので、社外にいる場合、ブラウザで現在値を確認することができません。例えば、1回目の警報から30分後も逸脱を継続していたら、それを知らせてくれる警報メールが届くと離れた場所から現場の状況を知ることができるので、そういった機能があるといいなと思いました。
二つ目は、警報機能を時間帯で ON/OFF できるといいなと思います。親機は24時間、子機の警報状態をチェックしていますが、指定した時間帯の警報監視を OFF にできると便利だと思います。弊社でおんどとりを設置している場所は主に作業場と冷蔵冷凍設備内です。特に作業場は日中に室内の冷やし込み作業を行うのですが、作業が終了するとエアコンを切るので温度が上昇します。警報を設定していると閾値を逸脱するので警報メールが発報されますが、その警報は対応不要とわかっているので無視しています。ただ、不要な警報メールを受信しているとメールボックスに警報メールが溜ってしまうので、時間指定による警報監視機能があるといいなと思います。
三つ目は、サーバ上で異常時にどんな対応をしたかを残せるメモ欄があるといいなと思いました。HACCP による管理の中で温度の記録は必須ですが、何か温度異常があった時にどんな対応をしたか、これをメモとして残せる機能があると振り返ることができて便利だなと思いました。
――貴重なご意見をありがとうございます。時間指定による警報監視というのは、初めて伺う意見でした。本当に必要な警報を受けることができると、製品の使いやすさが向上すると思います。いただいたご意見は今後のサービス向上へのヒントになると思いますので、社内でも共有させていただきます。
おわりに
加工現場では初めて見る枝肉の迫力に圧倒されたが、社内の構造もまた大変興味深かった。一つの建屋に本社と加工場が備わっているので、社内連携が取りやすく業務の効率化が促進されていることがよく分かった。また、 HACCP に沿った温度管理では、私たちの製品を設置していただいている現場を拝見して、改めて重要な役割を担っているということを実感した。 今後もよりよい製品・サービスを提供していけるよう、鋭意努力いたします。
この度は取材にご協力いただき、ありがとうございました。
なかやま牧場様のウェブサイトはこちら