Yosuke

温度だけじゃない おんどとり―工事現場の騒音振動測定

今回は温度だけじゃないおんどとり、電圧・電流(4-20mA)・パルスロガーが、工事現場における騒音や振動の測定に活用されている事例をご紹介します。

京都市にある株式会社島津テクノリサーチ様を訪問し、土居副センター長、武重様、松江様に弊社のおんどとりシリーズを使うことになった経緯について話を伺いました。
株式会社島津テクノリサーチ様は1972年(昭和47年)に科学分析分野の草分けである株式会社島津製作所によって分析専門の会社として設立されました。環境事業においては国内最大規模の分析・調査を展開し、様々なソリューションを提供しているリーディングカンパニーです。

日付 2024年1月29日
訪問先 株式会社島津テクノリサーチ様
使用機器 RTR500BM、RTR505BL、VR-71、TR-73U
使用目的 工事現場における騒音や振動などの環境測定

Q.株式会社島津テクノリサーチ様についてご紹介ください

武重氏
弊社は大きく分けて、環境事業、医薬ライフサイエンス事業、そして製品や素材を評価分析する試験解析事業部の3つに分かれています。
元々は環境の分野が大きかったですが、医薬品の信頼性基準に準拠した各種試験、また、新素材・複合材料に関する各種試験も行っています。
我々がいる環境事業部は、ダイオキシン類や残留性有機汚染物質(POPs)など、極々微量の環境汚染物質などを分析しています。
昔は良いと思って使われていた物質であっても、実は環境に悪いということが後から分かってきて、今はそれらの対策に追われているような世の中なので、例えば構造物から塗料を剥いできて、その成分を分析したりしています。

松江氏
先日は二条城のお堀にかかる橋の成分分析をするために、お堀に船を浮かべて必要なサンプルを採取してきました。

Q.おんどとりはどんなことに使っているのでしょうか?

武重氏
例えば、焼却炉やビルの解体工事中の騒音や振動を連続的に測定し記録することに使っています。

――工事中は騒音や振動を連続して測定することが義務付けられているのですか?

武重氏
色々な規制はありますが連続で測る必要はないんですよ。

元々は、それをすることで周囲の環境に配慮していますというアピールだったものが、だんだん工事の仕様書の中に条件として書き込まれるようになり、それに対して工事業者の方々から、「どうやってアプローチしたらいいんだろう」と弊社にご相談いただいているという流れですね。
工事中に騒音や振動が出ることは避けられませんが、音や振動はすぐに気がつくので、施工主は近隣住民に迷惑がかからないように特に気をつかうところです。
工事現場のどちらかというとネガティブなイメージをどうやって払拭するかみたいなところから、騒音や振動を測定し記録するだけでなく、その値をデジタルサイネージやLEDの表示板を使って一般の方にもリアルタイムに公開しています。このように値を公開することで、工事する側も周囲に配慮しながら工事を行うようになります。

データがどうであれ、近隣の方からクレームが来たらアウトです。
我々が提供するサービスでは、一定時間連続して規制値を超えた時に予防的に警報を鳴らす、それも規制値よりも低い数値で警報を出します。その段階で、このまま工事を続けたら苦情が出るレベルになるなと工事現場の監督が判断すれば、「休憩入れましょうか」とか「ちょっと作業控えましょうか」とか、もし重機の稼働が重なっていれば「こっちを半分減らそう」というふうに工程の管理をすることで騒音や振動を抑えるように工夫します。

Q.どのタイプのおんどとりをお使いになっていますか?

武重氏
電圧測定ができるRTR505B(+VIM-3010)と、他社の騒音計や振動計を組み合わせて使っています。
騒音計や振動計の多くは、その測定値(db)を電圧値(V)で出力することができるので、その値をRTR505Bを使って記録しています。
解体工事現場の多くはネットワーク設備がないので、RTR505Bで記録したデータはRTR500BM(モバイル回線対応親機)を使って、ティアンドデイのおんどとりWeb Storage(無料クラウドサービス)に送信しています。
こうしておんどとりWeb Storageに送られたデータは、貴社が提供しているAPIを使って我々独自の環境モニタリングシステムに定期的に取り込んでいます。
工事業者の方々は、弊社のモニタリングシステムを利用して騒音や振動の推移を見たりレポートを作成することもできます。
それと同時に、先ほどお話したようにデジタルサイネージなどを使ってリアルタイムにその値を公開もしています。

そもそも騒音や振動の値を公開したくない、何のメリットもない、という考え方が無かったわけではないです。ただ、リアルタイムにその値を公開したり、工程を書いた掲示板の中で「来週は大きな音を伴う作業があります」とお知らせすることで、「一時的にご迷惑をお掛けしますが、近隣の方々を無視して工事しているわけではないです」という配慮を示すことができます。
これが意外と日本人には大事なことで、外との繋がりを遮断するのではなく、繋がりを持つためのツールとして我々のサービスを使っていただいています。
工事現場の方々も決して迷惑をかけたいわけではなくて、工事が必要なのでやらなきゃいけないんです。工事中の騒音や振動は避けられないですが、「この一週間だけ我慢してください」と言われれば、一週間だけなら・・・とも思えます。
でも、同じ工事、同じ期間であったとしても、これを何も言わないでやっちゃうと、「これいつ終わるんだ」、「この騒音にいつまで耐えればいいんだ」ってなっちゃいますよね。
そういったところのアピールというか、工事をうまく回すために我々は呼ばれているので、なるべく皆様に寄り添えるサービスを提供したいなっていうことが弊社のコンセプトですね。

騒音や振動の(LEDの)セグメント表示も、昔は赤色のものがほとんどでしたが、赤色はどんな数字であっても警告を与えるイメージですよね。その後に青色のLEDが開発されて、青色が出ると白色のLEDなどがどんどん開発されたんですね。
白色だとどんな数字であっても強いインパクトがないということで、私たちも表示を白色に変えたりデザインを加えたりしていきました。
意図しないものが伝わってしまうのは、視覚から得る要素がすごく大きいので、色合いなどが持つインパクトはすごいんだなって思います。視覚で与えるインパクトであったり、説明が必要なものって、やっぱりなんていうのか・・・足りないんだと思いますね、表現力が。説明しなくても伝わるっていうのが到達すべきもののような気がしています。

我々が行っている連続測定や科学分析の分野ってとっつきにくいんですよね。測定器の世界も、いかにも測定器っていう形状の物が多いと思います。ゴツイというか。
でも、おんどとりの卵型の電圧モジュール(VIM-3010)のデザインとか、その丸っぽくて優しいデザインから難しくなさそうな機械に見えるんです。もしかしたらその丸みにあまり意図はないのかもしれないですけど、でも使う側に何かしら伝わってるものはあるんだと思います。
おんどとりのデザインのおかげで「とりあえずやってみようか」って皆に思っていただけます。「置いておけばいいだけだよね」みたいな親しみやすさがあって、現場で使っていただきやすいので、弊社も導入しやすかったです。

――丸みを帯びた形状から優しさや安心感を感じることはありますね。
ティアンドデイはデザインをとても大事に考えています。
無駄な機能は省こう、難しいと思われない物を作ろう、その上で今の世の中に無くて面白い物を作ろう、というコンセプトを大事にして製品作りにチャレンジしています。
デザインをお褒めいただけて本当に嬉しいです。

武重氏
見た目や形だけじゃなくて、そのコンセプトというか考えがとても面白いなって私も思うところですね。 やっぱりそういうのがとても大事なんだなっていうのは感じています。

我々の業界もどちらかというと定型的で、皆さんのイメージにあるように、「ルール上、測らないとダメだからやってるんでしょ?」という前提が本質的にはあるんです。
この業界は、測定方法などは公定法(※)で決められているので、本来ならば競争がないはずなんです。競うのは価格だけっていうのが、この業界が抜けられない、ずっとぶち当たる壁なんです。でも本当は、それを超えてほしいというニーズがお客さんにはあったりするんですよね。
騒音や振動の測定もそうですが、「どうせやらなきゃならないならば積極的にやりたい」というお客さんもいらっしゃるので。
そんな時にどこまでそのニーズに近づけるのかっていうのはずっと我々の課題ですね。
法律上これしか書いてないんで、みたいなところがいつも答えだったりするんですよ。
ルールがとてもしっかりできている業界なので、そういう意味ではどの同業他社さんも限界を感じてると思います。

じゃあここで何を競争するかっていっても「別の分析会社さんよりいいデータ出します」なんてことはできません。それだとデータの改ざんになっちゃいますからね。
誰が測っても同じ結果でなくてはならないものだからルールがあるんですよ。同じルールの上で、誰が測っても基準を超えたのでアウトですっていうお話なので。他社とは違うことがやれますっていうアピールがほとんどない業界ですね。
それでも「もっと色々な要素のデータが取れないの?」「もう少し環境に対してできることはないんですか?」というご相談をくださるお客さんもいらっしゃるんです。
そんな中で、我々ができることをもうちょっとチャレンジしないとダメだなっていうのは改めて思うところですね。

※公定法とは
同じ物質を誰がいつどこで測定しても同じ結果が得られるように、測定方法を定めたもの

Q.なぜ騒音や振動の連続測定におんどとりを選ばれたのですか?

武重氏
データの連続測定は、有線でやることの方が優先順位が高いんですね。
無線は誤差であったり通信不良というようなネガティブなイメージがあるので基本は有線です。弊社は、正確性というのを求める会社なので、有線でやるっていうのが基本だったんです。
でも有線には限界がありまして、現場が大きくなるにつれ、何百メートルっていうケーブルを引くことは難しくなります。
現場のニーズもどんどんレベルが上がってきていると言いますか、元々ニーズはあったんでしょうけど我々が断ってたんですね。
それまでは、PLCだったり他社のロガーを中心に使わせていただいてたんですけども、やはり現場のニーズには応えられない。有線で対応することができる限界が来てどうしようかって悩んでいたこともありました。

その頃、今日もご同席いただいている環境技術センターさんと連続測定の仕事に一緒に取り組んでいました。その中で、ティアンドデイさんが環境技術センターさんのグループ会社であることを知りました。
そこで、ふと、今から30年くらい前の学生時代におんどとりを使わせていただいていたことを思い出しました。
考えてみたら、ティアンドデイさんに相談したらもっとうまいことできるんじゃないかと思って。それで話を聞いてみたら、温度だけじゃなくて、電圧など色々な要素を測定できる無線式のデータロガーがあるということを知りました。それならばおんどとりを使えば無線でできるかもしれないっていうことからスタートした感じですね。
その頃ちょうど連続測定の現場を請け負っていたんですが、やはり有線をはわせるだけでとても大変な作業で、そもそも現場には電源もなく、他の部門のメンバーも引き連れてケーブル配線することにすごく抵抗がありました。無線化できたらありがたいっていうのは、弊社にも、お客さんの側にも出てきたっていうところがありました。
さらに、おんどとりならば、もしかしたらクラウドにデータを上げられるかもって思って調べてみると、やはりできるというのを知って、そこから無線化に着手したというのが始まりだったと思います。

――2024年におんどとりの発売開始からちょうど30周年を迎えます。
初期中の初期からおんどとりを使っていただいていたのですね。

武重氏
当時、大学の研究室で環境省からフィールド実験の仕事を受けていたんですが、その時は「あの山をどう把握しますか?」というのが助教の先生から与えられた課題でした。
僕らはある地点の温度を一生懸命に取るわけですが、助教から「このデータだけであの山を説明するの?」って言われて、「面白いのがあるから遊びでこれ使ってみようか」って渡されたのがおんどとりでした。
ただ、その理由とか、おんどとりという製品のコンセプトっていうのはあまり教えられていないんです。
ドライブがてら助教と一緒に山中に登っていって、標高が上がるたびにおんどとりを土に埋めていくんです。「これ見つからなかったらどうするんですか?」「壊れてもまあいいか」とか言いながら。
それで一年後に掘り出しに行ったらちゃんとデータが取れていました。
その時、簡単に、しかも大量のデータが標高ごとに取れるっていうのをみて、これは何かすごいっていうインパクトがありました。

フィールドに出てみると、分析できることってごく一部しかないんです。
それをどう面的に広げるか、フィールドに落とし込む説得力を出すためにはデータの数って圧倒的に大事なんです。正確なデータも力を持つんですが、これからはその数も大事なんだなっていうのはうっすら分かっていました。でもその当時にはビッグデータなんて言葉もなくて。
今はデータの数、とにかくデータを収集するっていうところを皆さんが競争しているようですが、それってここ最近の話であって、30年前にそれが売りになるというか、力になるって、多分、おんどとりを作った方はなんとなく考えていらっしゃったと思いますが、それで開発された製品っていうのは、かなり早かったなって思います。

――今から30年前、データロガーというと高価な物ばかりで、そのデータは紙に記録するものが一般的だったそうです。
そんな時代に、弊社は温度を測定・記録・データ化することができるおんどとりを安価で発売し、測定したデータはパソコン上でカラフルにグラフ描画することができました。
電池で動作するので、条件を色々と変えて、簡単に、かつたくさんのデータを気軽に取得することができるようになったんです。

武重氏
正確性というよりも、データの数やそのビジュアルがかなり説得力を持つんですけども、当時はそんなデータが取れるっていう手法がほとんどなかったので、そういう意味でも説得力のあるデータが取れるっていうのが衝撃的な出会いでしたね。

改めて、製品のそもそものデザインやコンセプトがすごいですよね。最初にこんな製品を作ってみようと思ったことがすごいと思います。
先ほども話した通り、学生の時の私は、おんどとりのコンセプトやデザインについて何も説明を受けていないんです。でもやってみたら面白かったっていう、そこがすごいなと思ってます。
デザインの走り出しって、説明ができないというか。説明ができた時点でもう他の会社も同じことを思いついていたり。最初に作ることのすごさっていうのを、やっぱりその時に改めて思いましたね。

松江氏
我々が環境調査を行う時に、どの機器を使うかは担当者次第ですが、私たちが何を言ったわけでもなく、若い人を中心におんどとりを持っていく人が多いです。
「おんどとりなら、ただ測定器とつなげばクラウドにデータが上がってきますよね」って言いながら。

土居氏
私もTR-73U(温度、湿度、大気圧を測定できるロガー)を10台ほど持っています。
環境調査は条件が変わるとそのデータも変わってしまうことがあるので、現場の環境を把握するために使っています。

武重氏
おんどとりっていう名前のインパクトもすごいですね。
他社が同じような温度のロガーを作っても多分おんどとりの名前を塗り替えるのは難しいと思います、っていうくらいに浸透しているので。

――おんどとりの中には、温度だけではなく電圧や電流やパルスを測定できるデータロガーもあります。
騒音や振動の測定など、アイディア次第で色々なことに使えると思うので、その存在がもう少し広く知られたらうれしいです。

2024年におんどとりは発売から30周年を迎えます。
温度だけじゃないおんどとりを初めて知った方もいらっしゃると思います。
次の30年、50年も、温度のデータロガーのみならず、皆さまにワクワクしていただけるような製品を作っていきたいです。

株式会社島津テクノリサーチ様
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ライタープロフィール

Yosuke

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おんどとりismライター3号でございます。