Hiro

株式会社松本山雅

みなさんは松本と言われて何を思い浮かべるだろう。
松本が誇る国宝松本城だろうか。雄大な北アルプスや美ヶ原高原など自然と山に囲まれた豊かな土地だろうか。あるいはセイジ・オザワ 松本フェスティバル(旧称サイトウ・キネン・フェスティバル松本)の開催地であり、草間彌生氏など多くの文化人を輩出している文化的・芸術的な土壌だろうか。
だが、松本には忘れてはならないもう一つの魅力がある。それが松本山雅FCの存在だ。

松本山雅FC

日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に加盟するプロサッカークラブ。
2012年よりJ2リーグに参加し、3年目でJ1昇格。これは史上最速の快挙。現在はJ2リーグに所属し3度目のJ1昇格を目指し奮闘している。

日付 2021年4月
訪問先 サンプロ アルウィン
使用機器 RTR500BW、RTR503B

今回は株式会社松本山雅の競技運営担当の岩崎さんと営業担当の茂原さんにお話を伺った。
弊社ティアンドデイは、かねてからお付き合いのあった松本山雅FCのオフィシャルスポンサーに今シーズンから加えて頂いた。
そのご縁もあって、松本山雅FCではおんどとりを試験的に運用しており、そのメンテナンスも兼ねてホームスタジアムであるサンプロ アルウィンにお邪魔した。

アルプスからの風を受けて。アルプス・ウィンド「アルウィン」

松本市街から車を走らせること約30分。のどかな田園風景に囲まれた、信州スカイパークという大規模な複合公園施設がある。サンプロ アルウィンはその公園の一角に位置する。収容人数は2万人と国内でも決して大きくはないスタジアムだが、ホームゲームの時には1万人を超える観客がここに集結する。
※ 2020年、21年は新型コロナウイルス感染症対策のため入場規制をしているが、13年-19年の間は平均来場者1万人以上。ピークの19年では平均来場者17,416人。

ホームタウン人口が48万人ということを考えるとこれがどれだけ凄いことか分かるだろう。

松本山雅FCがなぜここまで地元に愛されるチームになったのか、お話を聞くうちにスタジアムにもその秘密があるように思えた。岩崎さんがまずアルウィンの特徴として挙げてくれたのは、その風だ。

岩崎さん「特色という意味では、風が強い日が多いですね。ゴールキックが風で押し戻されるようなこともあるんです。その日の風の具合を読まないといけないこともあり、苦労することも多いです。 笑」

しかしサンプロ アルウィンの最大の特徴はなんと言っても臨場感だという。

岩崎さん「厳密に言うと球技場なので、ラグビーやアメフトなどの競技もできますが、年に1回やるかどうかで、基本はサッカーを行なっています。陸上トラックもないので非常に臨場感があるのが特徴です。」

陸上トラックのない球技専用スタジアムなので物理的に観戦できる距離が近いのだ。とても見やすいだけではなく、視覚以外の五感で感じる情報量が圧倒的に変わってくる。この臨場感ある選手の躍動にサポーターは自然と引き込まれていき、一体となり熱を帯びていく。

松本山雅FCは「One Soul」というスローガンを掲げている。サポーターが選手と一体となって戦っている、その雰囲気の醸成の一助となっているのが、臨場感あふれるサンプロ アルウィンというスタジアムなのではないかと筆者は感じた。

さらにアルウィンでは、より臨場感を楽しめるエキサイティングピッチシートという席も用意している。芝生とバックスタンドのわずかな隙間に3段の雛壇を作り、座席を設けて観客席として提供しているのだ。通常の観客席でもかなり近いのだが、エキサイティングピッチシートでは正に目の前を選手が走り抜ける。選手と同じ目線の高さで欧州スタジアムにも引けを取らない近さで試合を見ることができる。

この席の設置には実は弊社の社長も関わっていたというから驚きである。

茂原さん「当時、私は山雅のサポーターをやりながら銀行員の仕事をしていたのですが、山雅の神田社長と一緒にティアンドデイの社長にお食事にご招待いただいて、そこでサッカー談義をしながら食事をしたのが2016年の夏のことでした。お話の中でティアンドデイの社長が、アルウィンは陸上トラックのないサッカースタジアムだからもっと近くで見たいよねと、レストランのテーブルにあった紙ナプキンを取り、こんなのいかが?と絵を描いたんです。笑 」

茂原さん「アルウィンはスタンドの観客席もとても近く、臨場感があるけどより近くで感動を体感できるスタジアムにしたいよねと。」

松本山雅側としては当時、伸びていく集客力に対し席数の不足を感じていた。この提案で座席数を増やすことができる。抱えていた課題の解決にもなる。
そこからの神田社長の行動は早かった。スタジアムバナーの調整や県に対する許可申請などをこなし、2017年にはもうこのシートを実現した。

岩崎さん「やっぱり有名選手が来る時は特に人気ですね。近くで見たいという人が多い。テレビでは分からない音、選手が何を言ってるかや、ぶつかり合う音とかも聞こえるんです。」

茂原さん「目の前を日本代表選手や有名外国人選手が走り抜ける醍醐味は素晴らしいものがある。夏場なんか特に、芝の匂いまで感じることができるんです。僕の知る限り、ここまで近くで見れるスタジアムは日本でもほんとに少ない。」

サポーター、チームバモス、社員、社長、全てが同じ目線で

岩崎さんは言う。

岩崎さん「サポーターと会社、みんなが同じ目線で、山雅を良くしていくためにはどうしたら良いかを考えている。サポーターの考えを常に最優先にする訳でもなく、会社の考えだけで進める訳でもなく、良いバランスが出来ていると思う。」

アルウィンで試合がある日、神田社長はスタジアム入口にある総合案内所でサポーターをお出迎えする。そうすることでサポーターとすぐにコミュニケーションが取れるし、現場の様子を常に肌で感じ取っている。

サポーターも神田社長に子供をあやしてもらったり、たわいもない世間話をしたり、近所のお兄さん的な感覚で接している。試合後のチームバモス(ボランティアスタッフ)の反省会にも神田社長自らが出席し、みんなで議論し問題点はその場で対策を立てる。

チームバモスには毎試合100人近くの人数が参加しているが、みんなそれを生きがいのようにして楽しみながら参加してくれている。主婦の方や学生からご高齢の方まで、幅広い層の皆様に力を貸してもらっているとのこと。

松本山雅FCがずっと掲げているスローガン、「One Soul」。それを体現しているからこそ、山雅に関わる全ての人が、自分ごととしてチームのために何かできることがないかを模索しているのだろう。

サポーターについて、岩崎さんはこんなことも仰っていた。

岩崎さん「うちのサポーターはとにかく温かい。アウェイで負けた帰りのサービスエリアとか合わせる顔がないのですが、サポーターから頂く言葉で印象的なのが『選手たちを勝たせてあげれなくてごめんね』とか、『僕たちにもっとできることある?』とか、つまり一緒になって自分ごととして、プレーはできないけれど一緒に戦ってくれている人が多いんです。」

松本山雅もそんな地元のために地域貢献活動を惜しまない。「人づくり」「まちづくり」「未来づくり」の3つの柱のもと、本当に多岐に渡る活動を実践し、地元に貢献している。地元が元気になれば、山雅も元気になる。相互に作用しあいながら、ホームタウンを活性化し、松本山雅を活性化しているのだ。
※ 松本山雅は2017年にホームタウン貢献度調査でJ1、J2全40クラブ中1位に輝いている。

なぜスタジアムにデータロガー?その活用法は?

サンプロ アルウィンは前述のように臨場感と感動を体験できる素晴らしいスタジアムだ。ただ、少し弱い点もある。アルウィンには屋根が少ない。そのおかげでスタジアムの中からも北アルプスを臨むことができるのだが、サポーターにとっては晴れなのか雨なのか、暑いのか寒いのかという問題は重要関心事項なのだという。
おんどとりはクラウドサービスを経由しAPIを使い、温度や湿度のかなりリアルタイムな情報をwebサイト上で表示することもできる。サポーターが今のアルウィンの温度を手軽に確認できれば、より快適に観戦していただくことができるようになる。

現在、アルウィンでは4箇所に温度と湿度を測定記録するおんどとり RTR503Bを設置し、無線機能を持った収集機RTR500BWでデータを集めてクラウドに送信している。RTR503Bについては直射日光や照り返しによる測定値への影響を低減するため、銀紙を貼った筒の中にセンサーを入れている。筒は密閉せず、センサーは内壁に接触しないようにすることで、できるだけ正確な温湿度測定を実現する工夫だ。
湿度センサはその性質上、防水性能を持たせることができないが、設置の工夫でこのような幅広い使い方が可能になる。

観戦環境を見るためのデータとしてももちろんだが、ピッチに立つ選手たちのコンディションに配慮するためにも温湿度のデータは非常に重要だ。JリーグではWBGT(熱中症指数)が28を超えると飲水タイムを取り、31を超えるとクーリングブレイクを取る、という規定を定めている。このWBGTを算出するのに使うのが温度と湿度なのだ。

また近年、山雅では新型コロナウイルス感染症対策の一環としてCO2濃度の計測も弊社製品を使って行っている。CO2ロガーはアルウィンでは運用されていないが、事務所や選手移動中のバス車内などで活躍しているという。

茂原さん「選手の静岡キャンプ、鹿児島キャンプのバス移動中のCO2の値の確認にも使っていました。見える化がとても大事で安心感を提供してくれたんです。」

岩崎さん「密と言われても、その感覚に個人差があると思いますが、数値があると感覚や雰囲気とかではなく明確な基準になる。疑心暗鬼になったりナーバスになってしまいがちであるが、数値で見れることで安心感を得られる。大丈夫なの?という疑問に対して、数値的には大丈夫だよ、と説得力を持って説明できます。」

松本山雅のスタッフ会議では、CO2濃度が上がってくると換気をするという。数値があることで納得し、納得することで行動が変わり、現在では習慣化するまでになったという。

余談にはなるが、スタジアムにおけるCO2計測としては、国内カップ戦・ナビスコカップ決勝でおんどとりを使ってCO2測定をしている。トイレ、選手ロッカールーム、観客の移動時に混雑する箇所など実際のCO2の値がわかると問題点の洗い出しが可能になり、それに向けて対策が検討できるようになるのだ。

今後、より快適でより安全・安心なスタジアム運営におんどとりが貢献できることを期待する。

営業担当の茂原さんは、以前から個人的にデータロガーについてとても興味をお持ちとのことで、おんどとりも15年ほど使ってくださっている。CO2についても、高速バスなど乗り物内で乗客が測定値を確認できるパネルなどを作れば利用者もとても安心できるのにと仰っていた。
前職が銀行員で現在が山雅の営業と、地元企業をいろいろと回る機会の多い仕事をしてきた茂原さんによれば、おんどとりのことは地元のほとんどの企業が知ってくれていたようだ。ただ、松本のメーカーが開発していることについてはあまり知られていなかったとのこと。
東京の展示会に出展したときなど、おんどとりは知っていてもティアンドデイは知らないという方にお会いすることがとても多い。このブランド名に対する社名認知度というのは、弊社の課題のひとつだろう。

松本山雅は地元と心をひとつにし、喜びも苦しみも分かち合いながら、ともに歩み、ともに進んできた。相互に相手のことを思い、自分のできることを模索することでクラブチーム・サポーターという垣根を超えて愛されるチームとなった。
その姿勢には我々メーカーにとっても見習うべきところが多い。これからもユーザに愛される製品作りに励んでいきたい。

ライタープロフィール

Hiro

Hiro

東京デザインサイト(TDS)勤務。サッカー観ます。