※記事中の組織名、拠点名、部署名などは記事公開当時のものです。
2018年秋、島根県浜田市で葉物野菜の生産をされている「みうらファーム」さんを訪問した。みうらファームさんでは、スマホで使える潅水用タイマーバルブ、DoValveを多数ご使用いただいている。ティアンドデイの製品が、どんな環境でどんな使われ方をされているのか? 代表の三浦大輔様に導入の背景を含めお話を伺った。
日付 | 2018年10月3日 |
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訪問先 | みうらファーム(島根県浜田市) 三浦大輔様(株式会社ぐり~んは~と 取締役) |
使用機器 | DoValve DOV-25BT 約70台 |
使用目的 | ビニールハウス内の潅水自動制御 |
Q: どんな野菜を生産しているのか教えてください。
三浦氏:「9生産者団体で任意団体を作っていて、その任意団体が株式会社「ぐり~んは~と」という販社を作っています。長野県ではスーパーチェーンのツルヤさんに10年前から出荷しています。ぐり~んは~との特徴は、そのほとんどが有機栽培だということです。主な品目はほうれん草、小松菜、水菜、葉ネギ、他にはワサビ菜、赤茎ほうれん草、ミニチンゲン菜、ルッコラなど。これら8品目を主要品目として各農家栽培しています。参加農家さんによってはビールを作ったり、地場のスーパー向けにオクラやピーマン、春菊を作っている方もいらっしゃいます。みうらファームでは14品程度を作っていますね。」
Q: 生産者団体を作ったきっかけは何だったのでしょうか?
三浦氏:「作ったと言うより、寄り合って出来たという感じですね。
中心になったのは、私のお師匠にあたる佐々木農場さんという農家さんです。佐々木さんは昔からの大農家で、そちらに研修に行って自立した農家さんがぐり~んは~とには多いです。浜田市・江津市の農家の集まりで、先ほど挙げた品目のものを作っています。」
Q: 三浦さんが農業を始めたきっかけは?
三浦氏:「要は脱サラですね。元々は森林組合の職員だったのですが、当時の公共事業の削減などあって先行きが不透明な状況だったので脱サラして農業を始めました。平成18年の終わり頃のことです。実家が農業を営んでいたこともあって始めたのですが、佐々木農場さんが大規模にやってらっしゃったので、そこで半年ほど研修を受けました。その間に補助事業を入れてハウス4棟から始めたのが「みうらファーム」です。最初の頃は補助金がなかなか出なくて大変でしたね。中古のハウス4棟から始め、半年で11棟まで増やしました。現在は2圃場あって、内村町で約139アール。弥栄町の方で約70アール、合わせて約2町です。ハウスは80棟以上あります。
最初は地方の生協(九州のグリーンコープ、中国四国のコープCSネット)などから始まって、何の営業もしなかったのですが、次第に口コミで広がっていきました。」
Q: どうして宣伝もせずに広がっていったとお思いですか?
三浦氏:「ちょっとよく分かりませんですけど(笑)広い世界ではないのでやはり口コミだと思います。今も宣伝しているわけではありませんが、年に1回オーガニックエキスポとアグリフードエキスポという食の祭典があるんですけど、そちらにぐり~んは~ととして出展してから一気に広まりましたね。出展したことでお客さんの問い合わせが増えていって、現在納品先は70社程度あります。
作っているものが一般農家さんと少しニュアンスが違いまして、有機商材ということで量は必要ないが品数が求められます。一般農家さんは同じくらいの面積でも2, 3品目の所が多いですが、スーパーさんとしては少ない仕入先で有機野菜の棚をひとつ作ってしまいたいので品目が多いことが提案材料になります。」
Q: 葉物野菜のハウス栽培、実際苦労されることは何ですか?
三浦氏:「島根県の立地条件が悪いですね。長野県のように土地が広くて首都圏に近い方が生産には向いています。そういった不利益になるようなところをどうにか長所にしたいと思って、有機栽培に取り組んでいます。岩がちな土地ですが、反面、山や川、自然が多い、それが有機のイメージには合う。岩山が多くて耕作可能な土地が狭いので、生産量が少なくても品目で勝負できる有機栽培を選んでいるのはそういう意味があります。
一番大変なのは、届けるためのコストですね。ほとんどが宅配便を使っているので、運賃の値上がりなどは大きな影響を受けます。」
Q: 三浦さんがお考えになる「農業の魅力」とは何ですか?
三浦氏:「農業って地方でしかできないんですよ。日が昇ったら働き始めて、日が沈んだら休む、そんな昔ながらの生活スタイルでやっていけるストレスの少なさが良いところですかね。
実際は人の管理もありますし、販売にも営業にも行かなければいけないので普通の仕事と変わらない部分も多いんですけどね。自然のリズムに合わせて暮らせるということの他に、色んなことを自分でチャレンジできるというのも面白みの一つかもしれません。例えばトマトが作りたければ作ってみればいいだけの話でして(笑)。何でもやってみよう、ということが可能なのも魅力の一つだと思います。」
Q: みうらファームさんの従業員構成はどうなっているのでしょう?
三浦氏:「職員が3人、パートさんが25人程度います。タイからの実習生も受け入れていますね。やっぱり農業は人手不足なので…。島根県は全国に比べると外国からの実習生は少ない方だと思いますけども。」
Q: お使いいただいているDoValveについてお聞きします。DoValveを導入されたきっかけは何だったのでしょうか?
三浦氏:「ハウス屋さんが紹介してくれました。ハウスの鋼材を販売されるワタナベパイプの代理店さんが紹介をもらいまして、他社さんのバルブがあることは知っていましたが「これで良いんじゃない」という感じで決めました。バルブだけではなく、潅水をタイマー式にしたいということで資材とセットで六十数棟導入することにしました。」
Q: 導入の一番大きな理由は何だったでしょうか?
三浦氏:「うちの場合、一度にバルブの開閉ができないんです。ポンプの送水量の性能―水を送ると当然タンクの水が減って、そこでタンクに入ってくる水も計算するんですがそれで順番にやっていくと一日でまききれないんです。手動でやると一日人が付いていないといけないんですね。バルブを導入する前は本当に一人張り付いて、バルブの開け閉めを手でやっていました。夏場などはずっとその作業だけで終わったりしました。今年みたいな猛暑の夏は特にきつかったでしょうね。
結局、ハウスの面積が増えてくると一度にまく散水面積も増えるし時間もかかる。なのでタイマーバルブを導入しました。」
Q: どんな設定でDoValveを使っていらっしゃるんですか?
三浦氏:「設定は季節によって変わるんです。うちは葉物野菜が多いので、冬場を除けば種をまいてから収穫するまでの期間が約1カ月くらいです。真夏の時期は蒸散量が多いので、蒸散した分水をまかないと水分率が維持できないのです。反面、今年は9月に台風が来て、島根県の日照量は例年の半分以下でした。例えばその間は、種まき以外は一度も水をまいてません。そういった形で季節や天候に応じて極端に水やりの内容が変わるんですね。タイマーが活躍する時期は3月の後半から9月の頭くらいまでですね。9月は台風が来れば水やり不要ですが、晴天が続けば必要になります。
DoValveの設定変更は、年3~4回です。去年の冬に購入してからこれまで4回設定を変えました。」
Q: DoValveのタイマー設定を見たら夜間に散水する設定になっていたのですが、どうしてですか?
三浦氏:「9月は台風で水をまいてないので、夏の設定がそのまま残っているのをご覧になったんですね。夏の間は蒸散が激しいので、日中に水をまくと野菜が溶けてしまうんです。夜間に水をまくと徒長(とちょう:植物がひょろっと伸びること)すると言われるんですが、仕方ないので夜まいてました。」
Q: タイマー設定はご自身で試しながら決めてらっしゃるんですか?
三浦氏:「ほぼ勘ですね(笑)。大体毎朝ハウスの中は確認するので…。本当は土壌水分などを測っていればいいのでしょうけど、そんな時間もないので。昔は移植ごてでハウスの土を10~15センチくらい掘って、水があるかどうかで潅水するか判断していましたね。今はもう土の表面を見れば水やりのタイミングか分かるようになりました。」
Q: お使いになっていてDoValveの改善点やご要望はありますか?
三浦氏:「先ほど言った通り、朝ハウスの様子を見て判断するので、その日限りのタイマー設定が出来るようになると有難いですね。」
──ご要望を検討すべく、この後しばらくタイマー設定の細かいお話をさせていただいた。
Q: 例えばパソコンからハウス全棟のタイマー設定が出来れば便利かと思ったのですが、お話を伺うと毎朝ハウスの様子を確認する必要があるお使い方だということですね?
三浦氏:「作物にもよると思いますね。定期的に潅水すればいい物を作っていれば遠隔設定も有りだと思いますが、私たちの作っている野菜は種まきから収穫まで約1カ月、その間に晴天が続けば水を多くやらなくてはいけませんし、逆に雨天が続けば潅水の量は減ります。その微調整をどこでやるのか?という点がまだ人間頼りですね。」
Q: なんでもかんでも自動化すれば良いというものでもない?
三浦氏:「全部自動化できたら凄いですよ(笑)。まあでも、自動化ができる農家さんもいらっしゃると思うんですよ。土壌水分、温度、日射量、そういったものをきちんと分析できていて、どの状態ならどんな潅水をすれば良いか分かっていればできるのではないでしょうか。ただ、うちはそういった状態じゃないです。」
──この後、無線LAN対応したことによるDoValveのIoT化や、タイマー設定の選択肢を増やす方針について三浦さんに伺った。現状では1日限りのタイマー予約が可能になることのメリットが一番大きいとのお話。
Q: ティアンドデイには温度・湿度などを記録するデータロガーの「おんどとり」シリーズがあります。おんどとりで何か測定したいものがありますか?
三浦氏:「地温と土の含水率を持続的に記録取れないかと思ってました。気温や湿度は自分たちが作っている作物にあまり関係ないんですね。地温と含水率は影響があります。水をまくタイミングを見たいです。」
──地温の測定記録は、TR42とスマートフォンですぐに始められることを実演を交えて説明。強い関心を示される。土壌水分・含水率については、ワイヤレスタイプのRTR-500シリーズに、アナログ出力のあるセンサを接続できるRTR-505-V、RTR-505-mAなどのロガーがあるので対応可能。3G通信の親機、RTR-500MBS-Aと組み合わせ、無料のクラウドサービス「おんどとり Web Storage」をご利用いただけると説明。出荷が落ち着いてきたら、RTR-500シリーズのデモ機貸し出しをお試しになるとのこと。
三浦氏:「また、栽培の記録として地温や含水率を取りたいんです。すべてのハウスの温度を見る必要はなくて、サンプルにした所だけ継続的に測っていって、何か障害が出た場合などにデータを振り返ってみよう、そういう目的でおんどとりを使うことを考えています。1年2年ではなく、長期的にデータを貯めてみて、最終的に何が出てくるのかを見たいな、と。」
Q: 今後、農業分野でインターネットと接続したり無線を使ったりした製品で「こういう物があったらいいな」と思うことはありますか?
三浦氏:「いっぱいありますよ!(笑)例えばトラクターは自動化できると思っていますし、芝刈り機なんかは今年に入ってから色々出てますけど、畦畔(けいはん:あぜのこと)・水稲で言う畔(あぜ)なんかはロボットで対応できると思います。出せば売れるのに、どこも出さない(笑)。カリフォルニア大でしたか、レタスを直播きして追肥、草抜きまでやってくれる、ソーラー電池で動く機械を作ってましたよ。収穫まではやってくれないんですけれども。
こういう(おんどとりのような)ものでデータ収集していけば、自動で潅水もできるでしょうし、種蒔きから収穫まで自動でできるようになるんじゃないでしょうか。
農業は何かといったら、土の水分率に従って野菜の生育がどれくらい違うか、例えばハウス1棟ごとに環境は違いますし、もっと言えばハウス1棟の中でも場所によって違うところもあります。その違いに合わせた、気の利いた管理ができるかどうかということです。現在管理は人間がやっているわけですが、作業自体はほとんど自動化できるんじゃないですか?
水稲農家さんにとって田んぼの草刈りは重労働ですが、ここが自動化まで至らなくてもラジコン化などで効率が上がって安全にできれば、大いにメリットがあると思います。
葉物野菜でも収穫機・調整器などはまだ市場になくて手作業になります。」
Q: これからはどんな展望を持っていらっしゃいますか?
三浦氏:「今後はハウスを増やして収穫量を増やして、品目は増やしても1種かそこらかですね。人はこれ以上増やしません。日本は四季があるので、一年中とれる野菜というのは基本的にないんです。無理をすれば穫れるんですが、渋味がない、栄養素がない、そういうことに目をつぶれば一年中作れないこともない品目もあります。でもやはり、適期適作が大事だと思っています。そうでないと食味も出ませんし、特に有機野菜は自然に対する抵抗手段が少ないので適した育て方をする必要があります。「農薬を使ってないから安全」というだけでは消費者の方を引き付けることはできないので、必須栄養素は必ず含まれているなどのポイントを押さえることを目指してやっています。」
──本日はどうもありがとうございました。
おわりに
多台数のDoValve が使用されている場面を実際に見ると、メーカーの人間としては感慨もひとしおだ。水源の水量・水圧が限られていて一度にすべてのハウスに散水できない環境で、タイマーで順番にバルブを開いていくことで対応するという、正にDoValve のコンセプトを体現したような使い方をしていただいていることも嬉しかった。
農業分野では「おんどとり」シリーズが活躍できる場面がこれからどんどん多くなる、そこから新しい使い方や新製品のアイディアが出てきそうなことも確認できた取材だった。
帰り道、浜田沖に沈む見事な夕陽が印象的だった。