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Yosuke

黄檗宗大本山萬福寺

突然ですが、皆さんは『黄檗宗』を読めますか?
正解は『おうばくしゅう』と読みます。

『黄檗宗』とは日本三禅宗のうちの一つで、京都府宇治市にある萬福寺を大本山とする宗派です。
この萬福寺は約350年前に中国僧の隠元隆琦(いんげんりゅうき)禅師によって創建され、その建物は数々の天災や戦禍を免れ、未だ創建当時の姿を残しており、多くが国の重要文化財の指定を受けています。
また所有する什宝(じゅうほう)物の中にも重要文化財に指定されているものが複数あります。

今回は、この萬福寺の什宝物を収蔵・展示する建物「文華殿」で我々の“おんどとり”をお使いいただいているとの情報を聞き取材に伺いました。
早速、黄檗宗大本山萬福寺 化主(けしゅ)の久恒 信隆 様にお話を聞いてみます。

※ ちなみに、禅宗とは“座禅”を用いた修行を行う仏教の宗派のことです。座禅修行といえば皆さんご存知、一休さんがお馴染みですね!

日付 2019年2月28日
訪問先 黄檗宗大本山萬福寺(京都府宇治市)
使用機器 RTR-500NW、RTR-503、RTR-574-H
使用目的 什宝物の温度・湿度・照度管理

Q.まずは、黄檗宗大本山萬福寺(以降萬福寺)についてご紹介いただけますか?

「この萬福寺は、約350年前の1661年寛文元年、隠元隆琦 禅師によって創建されました。
隠元禅師は当時中国にある黄檗山 萬福寺の住職で臨済宗を代表するお坊さんでした。日本国内では江戸時代鎖国によって人々の仏教心が衰退し、それを案じた4代将軍徳川家綱公等の尽力により日本へ招聘されました。

隠元禅師は来日後、仏教の布教活動に勤しみ、日本に新風を吹き込み、文化の発展に貢献されたといわれています。
その熱心な布教活動が幕府に認められ、現在の地(京都府宇治市)に約9万坪の土地を与えられ(当時)、この萬福寺が創建され初代住職となりました。
隠元禅師は元々中国臨済宗の教えを受け継いだ高僧ですが、日本国内では隠元禅師の教えは、寺制や法規などが明風(中国式)であり、臨済宗と異なっていました。

さらに明治政府の指導により、禅宗は曹洞宗と臨済宗の二宗に制定した事により、隠元禅師の教えは臨済宗 黄檗派と称し、明治9年には一つの宗派、黄檗宗として独立・発展し今日に至っております」

と、久恒氏が穏やかに優しく語ってくれた。

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Q.大変失礼ながら、黄檗宗(おうばくしゅう)という宗派を初めて知りました。

久恒氏 「黄檗宗は、今日の日本三禅宗の一つです。他の二つは曹洞宗と臨済宗です。
現在、黄檗宗を名乗るお寺は国内に約350ヶ寺あります。」

――私どもは長野県松本市にある企業なのですが、ネットで調べてみると長野県内には約1,600のお寺があり、黄檗宗のお寺はそのうち13ヶ寺でした。

久恒氏 「現在は全国で約350ヶ寺ですが、お寺が開かれた江戸時代には隠元さんブームもあり、数はもう一桁も二桁も多かったそうですよ。
実は、皆さんが目にするもの、口にするもので、隠元禅師が日本に持ち込んだ物もたくさんあるんです。
まずは、インゲン豆。お名前の通りですね。そして、スイカ、レンコン、孟宗竹などです。」

「また、建築様式、お経、その他全てが中国式です。読経スタイルは鳴らし物を多用し音楽を奏でるような独特なものです。
建物は明朝様式が取り入れられ、皆さんがパソコンでお使いになるフォント『明朝体』も、その起源は隠元さんと言われています。」

「更に、仏教のお宅でしたらお仏壇と木魚があると思いますが、この木魚も隠元さんが持ち込んだものです。
現在は木でできた丸い形の物ですが、これは進化した形です。
原型はお魚の形をしていたんです。
実はその原型といわれているお魚型の物が萬福寺の境内にあります。後でご覧になっていってください。」

――こう教えていただくと黄檗宗がとても身近なものに感じてきました!

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Q.では、黄檗宗の教えとはどのようなものなのでしょうか?

久恒氏 「咀嚼してお伝えすると誤解を与える事もあるかもしれませんが……」と前置きされた上で、
「端的に申し上げますと棒と喝です。師弟関係の中で弟子に対して、問答にて棒で打ったり、喝したりする事を指します。問答、参禅を繰り返す事によって佛心を究明する事であります。
座禅を組み、ひらめけば良いが、必ずしもひらめくとは限らない。決められた答えは一つでは無いのです。
座禅、作務、問答を繰り返す事によって、言葉では表現できない境地を得る事が修行です。
禅宗のお坊さんには修行の終わりは無いと私は思っています。俗に言う死ぬまで修行、でしょうか。お釈迦様が悟りを開かれた境地を目指し、ひたすら修行に精進するのみかと思います。」

――食事も普茶料理(精進料理)を召し上がり、動物性のものは口にされないそうです。
普段から目いっぱい自堕落な生活を送っている自分には到底たどり着くことができない境地ですね……(苦笑)

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Q.さて、大変貴重な什宝物を保有されているそうですね。
“おんどとり”をそれらの管理にお使いいただいていると伺いましたが、導入のきっかけを教えてください。

久恒氏 「什物の中には重要文化財の指定を受けた物がいくつかあり、350年くらい前の物です。それらを劣化させず後世に残すため、最も重要な事は“温度と湿度の管理”と認識しております。
元からある第一文華殿から少し離れた場所に第二文華殿が竣工された際、温度と湿度を簡単に計測し、把握する事ができる製品を探していました。
そんなとき“温度管理”というキーワードで色々と調べた結果、貴社にたどり着きました。
我々が導入した6~7年ほど前、ネットワークと無線を使って一元的に温度を監視する事ができ、さらに無料で使う事ができるクラウドサービスを準備されている事が画期的で、驚き、興味をそそられました。
色々なメーカーの機器の提案も受け、検討しました。結果どれも予算オーバーでしたが、おんどとりならコスト的にもやっていけると思い導入しました。」

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Q.お使いいただいている機種を教えてください。

久恒氏 「親機にRTR-500NW、温度湿度計測にRTR-503、そして照度・UV計測用にRTR-574-Hです。」

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Q.無線型のRTR-500シリーズをご選択いただいた理由を教えてください。

久恒氏 「実は、建物が竣工したあとに温度計の選定を開始しました。そのため、配線や電源工事が不要である事が決め手でした。
LAN配線はもともと敷設されていたので、RTR-500NWを使ってデータを収集し、クラウドのおんどとり Web Storageにデータを送っています。」

久恒氏 「一つここで苦言を呈させてください!」

――なんでしょうか?

久恒氏 「無線型のおんどとりの電池の減りがつかみにくく、また特殊な電池につき入手性が悪く、この点が問題と考えています。
電池がなくなると、お客様が居られるなかガラスショーケース内で電池交換をしなくてはならい。
せっかく無線で電池式を使っているのだから、この点を改善してください!」

――仰る通りです。弊社でもこの点は問題点として感じております。今後の課題とさせてください。

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Q.RTR-574-Hをお使いいただいていますが、照度・UVを計測する義務があるのでしょうか?

久恒氏 「紫外線は展示物にとって良くないものです。
重要文化財を公開するうえで、温度、湿度や照度・UVのレベルに関しては文化庁の指針があるんです。
この指針を守らないと重要文化財を公開することはできません。
春と夏に特別展を開催し、重要文化財を一般公開しておりますが、この時期は特に厳密に把握するようにしています。
また、半年に一度はおんどとりで計測したデータと気象データとを照らし合わせ、温度や湿度がどのような変化をするかその傾向を整理しています。」

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Q.最後になりますが、製品に対するご意見、ご要望がありましたら教えてください。

久恒氏 「あんまり欲張ると良くないと思いますが……」

――いえいえ、どうぞどうぞ仰ってください。

久恒氏 「先にも申し上げましたが、計測した温度・湿度のデータと気象庁発表の天気の情報とが連動して記録できたらうれしいですね。
今は自分で記録データと気象庁のHPからダウンロードした天気データを使って相関を整理しています。
最近は電力メーターもスマートメーターになっていて、電気の使用料とその日の天気がインターネットで見られるんです。
このような仕組みになっていると助かります。」

――気象データは我々が商用利用する場合は有料という事もあり、無償で提供しているおんどとり Web Storageに搭載する事は難しい状況です。
ただ、天気との相関性が重要という事も承知しておりますので、今後にご期待いただければと思います。

――その他にはいかがですか?

久恒氏 「温度計にバックライトがあると良いと思いますよ!
展示室はけっこう暗いんです。毎日現場に目視確認に行くのですが、バックライトがあると良いなと思います。」

――なるほど。ただそれは便利な反面、電池寿命とのせめぎあいなんです。
たしかにバックライトがあれば良いなとも思いますが、ライトをつければ電池の持ちに影響してきます。
例えば、今お使いいただいている製品とシリーズは異なりますが、TR-7wbシリーズやTR-7wfシリーズなどは、Bluetoothや無線LANを使ってスマートフォン等に簡単に温度表示させる事が可能です。
現場における視認性を重視されるのであれば、こういった製品も今後ご検討ください。

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――本日は大変貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。

おわりに

貴重なお話を伺った後にお寺の境内を散策した。
教えていただいた通り、ところどころに中国色が見られる建物群で、とても独特な印象を受けた。
また、ちょうど夕方のお勤めの時間ということもあり、鳴り物の音とお経を唱える声が入り混じった、これもまた独特な音色が響き渡っていた。
このような古くからの伝統を守る一方、“おんどとり”のようなIoT機器にいち早く注目し、導入してくださったのだ。
萬福寺の公式サイトでは、InstagramやFacebook、YouTubeのバナーも設け、季節のイベント情報などを発信されているようだ。
伝統を守っていく必要があるからこそ、IoT機器やSNSのような現代のツールも積極的に活用する。
歴史とIoTとの素敵なコラボが垣間見えた一日だった。
おんどとりは発売開始から今年で25周年。我々も350年の歴史を目指し精進して参ります!

今回取材に伺った『萬福寺』の公式サイトは以下からご覧いただけます。
京都に行った際は是非足を運んでみてください!
黄檗宗大本山萬福寺Website

ライタープロフィール

Yosuke

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おんどとりismライター3号でございます。