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第2創業期は、発酵の温度管理から ―オブセ牛乳のヨーグルトづくり―

※記事中の組織名、拠点名、部署名などは記事公開当時のものです。

葛飾北斎が晩年を過ごした町としても知られる長野県小布施町。そこに、80℃15分でじっくり殺菌した牛乳を、創業以来75年つくり続けてきた小さな牛乳屋さんがある。オブセ牛乳だ。
その牛乳屋さんが「第2創業期としての再スタート」を掲げ、約2年前にヨーグルトづくりを始めたのだという。
それまで経験のなかった発酵の温度管理に「おんどとり」が使われていると聞き、3代目の西岡さんを訪ねた。

日付 2026年4月
訪問先 有限会社 オブセ牛乳 様
使用機器 TR71A、TR71A2
使用目的 ヨーグルトの発酵温度管理、パステライザーの温度管理

取材の機材をセットしている、その最中だった。録音の準備が整う前から、西岡さんはもう話し始めていた。

「元々うちは牛乳しか作ってなくて、ヨーグルトの方は2年前から作り始めたんです」

―― すみません、それ、もう録らせていただいていいですか。

「あっ、いきなり始めちゃってごめんなさい」

―― いえいえ、こちらこそすみません。

まずは世間話から、などと勝手に段取りを考えていた筆者が拍子抜けするくらい、西岡さんにとって最初からヨーグルトが本題だった。ならばと、そのままお話を伺っていくことにする。

Q. まずは会社のご紹介と、看板である牛乳のことを教えてください。


「うちは創業して75年なんです。オブセ牛乳自体は、80℃で15分の殺菌をしている牛乳です」

―― スーパーで見る牛乳は、120℃とか130℃で数秒、などが多いですよね。80℃で15分というのは、やっぱり手間がかかるんですか。

「そうなんです。120℃、130℃で2秒3秒の殺菌温度だと、短時間で殺菌するから牛乳がたくさんできる。だから大手メーカーさんは大量に生産して、ちょっと安価に売ることができるんですけど、80℃15分となると時間も手間もかかります。なので、うちみたいに小さいところが、あまり大手さんはやらない面倒なやり方を続けている感じです」

―― そこにこだわる理由って、何なんでしょう。

「ありがとうございます、いい質問を。いや、そこが一番、肝心なところです」

「妻のおじいさんが創業して、75年になるんです。そのおじいさんが若い時、名古屋の軍需工場で働いていたんですけど、こっち(小布施)へ戻ってきて、何か仕事をしようとした時に、いろんな選択肢があったなかで牛乳屋を選んだそうです。ノウハウは全くなかったので、いろんな人に聞いて、教えてもらいながら。最終的には自分の感覚で、牛乳が一番美味しくなる温度帯ということで80℃15分という殺菌方法を採用して、ずっとそれでやってきているんです」

―― 効率のいい超高温殺菌に変える、という話は出なかったんですか。

「私は3代目ですが、2代目の時にそんなことを考えたらしいです。だけど、やっぱり『そんなのダメだよ』ということでやめになったという話です」

―― 味わいには、どんな違いがあるんですか。

「120℃から130℃殺菌の牛乳だと、味がちょっとライトな感じになるんです。80℃までに抑えることで、ちょっと濃い感じの味わいになる。それが80℃殺菌の特徴ですね。実際に濃いわけではなくて、飲むと皆さん『これ濃いね』って言われるんですけど、濃度が高いとか、乳脂肪率が高いとかではなくて、味が濃く感じるんです」

Q. その牛乳屋さんが、2年ほど前にヨーグルトを始められた。これはどういう経緯だったんですか。


「僕は元々岐阜県にいたんです。岐阜県庁の職員で。このオブセ牛乳は妻の実家の家業なんですけど、後を継ぐ人がいなくて、もう廃業にするみたいな話を聞いてしまったんです。岐阜県庁の職員に僕の代わりはいるけど、牛乳屋は後を継ぐ人がいなければそのままなくなるよな……という、変な正義感みたいなものが湧き上がってきて。それで2、3年悩んで、思い切って退職して、こっちに来ました」

―― かなり大きな決断ですね。

「2度と同じ決断はできないと思います(笑)」

しかし、継いだ後に見えた現実は厳しかった。

「聞いた話では『普通に牛乳を作っていれば会社の経営は大丈夫だよ』ということで比較的簡単に考えていたんですけど。それを信じて経営を引き継いでみて、びっくりしました。『いや、これはダメじゃない?』って感じで。値段をなかなか上げられないなかで、原材料費がどんどん上がってきて、利益がどんどん減ってきている状況だったんです。働いている人はみんなお年を召されているし、工場や設備はボロボロだし、設備投資するにしても凄い資金が要るよなみたいな話で、いや、これは困ったなと思いました」

―― 牛乳だけで続けるのは難しかった、と。

「世の中の乳業メーカーを見ると、牛乳だけでやっているところってそんなになくて。コーヒー牛乳だったり、低脂肪乳だったり、他の乳製品をつくられているんです。うちぐらいですかね、牛乳だけでやってきたっていうのは。何か違うこともやらないとダメだよね、牛乳に付加価値をつけて利益率の高いものを考えてやっていかないと、この先すぐ終わっちゃうよねって、妻と2人で話をしていて」

―― そんななか、なぜヨーグルトだったのでしょう。

「バターがいいのか、生クリームがいいのか、ヨーグルトがいいのか、チーズがいいのかって考えながら。基本的には原材料が牛乳なので、検査とかも共通するものですし、牛乳工場に牛乳がいっぱいあるから、それをまず活用できる。ヨーグルトって乳酸菌を入れて発酵させればできるので、牛乳100%そのまま使えるんです。バターやチーズだと製造工程で副産物も出るので、その廃棄とか活用も考えなきゃいけない。でもヨーグルトなら、生乳をそのまま使えるというところが強い」

ヨーグルトづくりのための設備投資には、事業再構築補助金が使えることになった。プレーンヨーグルトは、2年前の5月15日、「ヨーグルトの日」に合わせて発売した。「オブセヨーグルトの日にもしよう」と乗っかった。翌年発売の加糖ヨーグルトも、同じ5月15日に出している。

―― 先ほどから「第2創業期」とおっしゃってますね。

「もう、ここにうちの社運がかかっているっていう意気込みです。私が会社を継いで、ヨーグルトを始める時に『うちの会社、今が第2創業期』と言い続けて。これ(ヨーグルト)を育てて、もっとちゃんとした会社にしていこうという感じで」

Q. ヨーグルトの味とパッケージ、かなり考え抜かれている印象です。


「これ、専門の会社さんにデザインしてもらったんですけど。いろんな案があったなかで、妻がかなりこの案を推していて、『これを選んでね。グラデーションが、オブセ牛乳がこれから時代にあわせて変わって行こうとする感じを表しているし、色合いもきれいなデザイン』って。そうすればヨーグルトコーナーで目立つでしょ、みたいな」

―― 実際、すぐ分かりました。容器もスパウトパウチ(注ぎ口とキャップの付いた袋容器)ですよね。

「カップだとスプーンを入れて盛り付けなければいけなくて、おかわりしようと思うと新しいスプーンを持ってこないといけない。そうすると、洗い物が増えます(笑)。この入れ物なら、好きな分だけ出せる。元がぺたんこなので納品されるときもかさばらないですしね。あと、ヨーグルトって置いておくとホエーが出ることがあると思います。うちのも水分が出てくるんですけど、食べる前に3回ぐらいパウチを揉んでやるとまた混ざるので、ホエーが出にくいっていうメリットもあります」

―― 味は酸味が強すぎず、かなりマイルドに感じました。

「あえてヨーグルトの酸味を落とした乳酸菌を使っていますので。これもテーマがあって、長野県って果物がたくさん採れますよね。この小布施もそうですけど、リンゴとか桃とか、シャインマスカットの畑とかがいっぱいあるので、フルーツに合うヨーグルトを作りたいなと思ったんです」

―― ヨーグルトがフルーツに合うのは当たり前、と思っていました。

「そう思われるかもしれないですけど、果物って一般的に酸味と甘みがあって美味しいものなんです。そこに普通のヨーグルトをかけると、酸味と酸味が合わさって酸っぱいに寄り過ぎてしまうというところがあるんです。なので、うちのヨーグルトはあえて酸味を控えめにして、ちょっとクリーミーな感じに仕上げています。あと、トロリとした感じにしている。そうすると、カットしたリンゴとかにかけたときに、フルーツの持つ酸味と甘みと、牛乳の持つクリーミーさが仲良く、美味しくなります。フルーツによく絡むとろみにしてあるので、一緒に食べやすいです」

ここで、小さめのパウチに入った加糖タイプの「モーミーヨーグルト」を試食させてもらった。

「僕の食べ方としては、最初3回4回ぐらい揉んでもらったら、キャップを開けて一口チュッと吸って。で、1回キャップを閉めて。それから10回、15回ぐらい揉んでもう1回吸うと、食感が変わるんですよ。揉むことでヨーグルトが柔らかくなっていく」

言われたとおり、まず数回揉む。キャップを開けて一口。たしかに美味しい。さらに揉んで、もう一口吸うと、さっきより明らかに柔らかくなっている。食べるヨーグルトの濃さなのに、スルスルと喉を通っていく。

―― 本当だ、さっきより柔らかい! 食べるヨーグルトなのに、飲めてしまう感じですね。

「そうですね。一般的な飲むヨーグルトと違って、濃厚な状態で味わうことができる。パウチに入れたことで、最後まできれいに絞り出せて、トロリとした感じのものを吸うことができます」

オブセ牛乳をベースにした濃い味わい。砂糖は入っているが控えめだ。「揉むほど柔らかくなる」というのは口で説明されてもピンとこないが、手の中で起きると妙に楽しい。

Q. ここからが本題なのですが。ヨーグルトの温度管理で、ポイントとなるのはどこですか。


「ヨーグルトをつくる乳酸菌は色々あって、そのなかでもうちはコレ、という菌を使っているんですけれども。発酵温度が違えば味も変わってきますし、やっぱり温度管理というのがとても大事なのです」

発酵に使うのはインキュベーター(発酵機)だ。表示される温度は安定している。ただ、西岡さんにはずっと引っかかっていることがあった。

「機械の中の、上の方と下の方の温度ってどうなってるんだろうな、と思うことがあったんです。機械の温度計の表示は1つしかないので、はたして上と下って同じ温度なんだろうか、と疑問に思いました」

―― 表示は1つでも、中の上と下が同じとは限らない、と。

「インキュベーターだけだと確かめようがないんで。それを確かめるために、おんどとりで棚の上と下を測って、『大丈夫だよな』ってことを確認しているんです。結果として、上と下で1℃程度の温度差はあることがわかりました」

―― その温度差自体は、問題ないんですね。

「その程度は問題はないです。ただ、上の棚はヨーグルトになっているのに下の棚はヨーグルトになっていない、ということがあると困るので、機械の特性をよく知ったうえで発酵の温度管理をやらなければいけないと思っています」

使用している機械だけでは確かめようがない。だから、自分で測ってみる。おんどとりは、そのための道具だった。
ただ、西岡さんが現在使用しているおんどとりにたどり着くまでには、回り道があった。

―― そもそも、おんどとりを使い始めたきっかけは何だったんですか。

「最初は、本当にどの温度計を使うといいのかわからない状態でした。牛乳と乳酸菌を混ぜるためのパステライザーという機械を買ったんです。その時に、温度管理するのに温度計って何を使えばいいんですか?と機械屋さんに相談して。『これを使えばいいですよ』って納品してくれたものがあったんですけど、それはT&Dさんの、今使っているTR71Aとは違う機械だったんです」

MCR-4TCという、同じ「おんどとり」シリーズのデータロガーだ。別途用意した熱電対センサをつないで、幅広い温度域を最短0.1秒間隔で記録できる。ただ、西岡さんが求めていたのは、何時間もかけて進む発酵の温度を、見たい時にすぐ確認することだった。

―― その機種では合わなかった、ということでしょうか。

「使いにくかったんです。温度センサもうまく固定できないし、『これ本当に使えるかな』と思いまして。『もっといいものないかな』と思って、T&Dさんのホームページを見ながら、『なんかないかな、なんかないかな』って。そこで、『あ、これいいな』と思って見たのが今使っているおんどとりだったんです。まずはパステライザーの温度を測るのに使ってみようと思いながら、『あれ、こっちのインキュベーターでも使えるな』と思いました」

TR71Aは誰かに勧められたものではなく、西岡さんが自分でサイトを見て探し当てた。付属の温度センサをつなげば測定でき、データは無線LANでクラウドに上がって、スマートフォンやパソコンからいつでも確認できる。インキュベーターには元々、別の記録計を入れていたが、24時間ほどしか記録が残らないうえ、温度を確認するたびに取り出す手間があった。ネットでデータが見られて一括管理できるなら、そのほうがいい。そう判断して、このおんどとりに切り替えた。

実際にインキュベーターを見せてもらうと、庫内に一台、おんどとりが置かれていた。2本の温度センサが棚の上下に固定されている。センサの先端が壁やヨーグルトに触れれば、測りたい庫内の温度ではなく、触れたものの温度を拾ってしまう。そのため西岡さんは、市販の固定具を探し、センサがどこにも触れないよう取り付け方を工夫している。

そのきっかけは、ある日のグラフだった。発酵後の温度の下がり方がいつもより遅い。西岡さんは、センサの先端がヨーグルトに触れていたのではないかと考え、固定方法を見直したという。温度データの違和感から発酵機の中で起きていることを推測し、測り方そのものを見直していく。今回の取材で印象に残ったのは、そんな使い方だった。

使い勝手について聞くと、答えは明快だった。

「やはりタイムリーに、見たい時にすぐ確認できるっていうのが、とってもいいと思います。あと、温度を測っている場所がいくつもあった時に、それぞれすぐ見ることができるのがいいです。今、他に使っている自記温度計だとアナログで見づらいので、おんどとりで良かったな、と。大変助かってますね」

Q. 牛乳の殺菌室のほうも見せていただきました。あちらの温度管理はどうなっているんですか。


殺菌室では、クラリファイヤーで生乳中の異物を遠心力で取り除き、プレートで65℃ほどに予熱し、ホモジナイザーで脂肪を細かくしてサラサラにする。西岡さんに説明してもらいながら設備を順に見ていくと、「殺菌パス」と呼ばれるタンクにたどり着く。ここで80℃まで上げ、15分置く。創業者の代から続く、あの殺菌温度だ。その記録は、今もアナログの自記温度計が担っている。

「基本的には80℃まで上がった時に温度計を見て、15分経っても80℃を切ってないってことを確認して、記録を残しています」

―― 紙の記録だと、後で見るのは大変そうですね。

「記録を見ようと思ったときに、見にくいんですよ。見やすいものに変えていかなければ、とは思っています」

瓶の洗浄機でも、機械についている温度計の位置だけでは安心しきれず、別の温度計を後付けして二重に確認している。工場のあちこちに、こうした「自分で確かめる」ための工夫が点在している。
そこから移動する途中で、西岡さんが口にした一言が耳に残った。

「今あるものを新しいものに変えるってすごいエネルギーがいるので。新しく作る場合はゼロから考えるから、導入しやすいですね」

ゼロから立ち上げたヨーグルトの現場では、自分で道具を選び、最初からデータで見える形に組み上げている。第2創業とは、そういうことでもあるのだろう。

Q. 最後に、これからの展開と、おすすめの食べ方を教えてください。

「これまでは牛乳しかなかったから、消費期限が短くて遠くにお届けできなかったんです。ヨーグルトは、表示が消費期限から賞味期限になります。賞味期限が長くなるので、遠くまでお届けすることができる。オンラインショップでも買ってもらえるし、1週間、2週間置いてから食べるなんてこともできるようになったので。可能性が広がりますね」

季節によって、小布施の桃やリンゴとヨーグルトを組み合わせたセットも販売する。

「元々のテーマが『フルーツに合う』なので、長野県だったり町の果物と一緒に買ってもらえたらいいな、と思っています」

牛乳そのものの消費量が落ちていくなかで、西岡さんは「牛乳によるいろいろな楽しみ方」を増やそうとしている。

「自分の会社でチョコレートができるかというとできないし、誰かと一緒にやって、『オブセ牛乳がこんな美味しいお菓子になったんだよ』っていうことができるといいなと思ったりします」

実際、長野市内に本社がある株式会社マルイチ産商では、オブセ牛乳を使った「みるくもち」や「いちごもち」、ドーナツなどの商品を展開している。自分たちだけでできることに閉じず、他のつくり手とコラボすることで、「オブセ牛乳」の楽しみ方も少しずつ広がっている。

―― ヨーグルトのおすすめの食べ方は?

「やっぱり生のフルーツが一番いいと思います。長野県でいうとリンゴのふじとか。あと、ヨーグルトの上にシャインマスカットを2、3粒乗せるだけでも、すごい高級感が出ます。変わった食べ方でいくと、ヨーグルトの上にあんこ、そこにちょっと抹茶をかけるとかね。和風ヨーグルトと僕は呼んでますけど、酸味の少ないヨーグルトだからこそできるんです」

取材の途中、何度か電話が鳴った。「そのようにお願いします」「明日3本、承知しました」。注文と、世間話と、ヨーグルトの話が地続きになった事務所で、第2創業が日常として回っている。

その日常の真ん中で、西岡さんは、発酵機の中の見えない温度を自分の手で確かめていた。表示は1つしかない。上と下は本当に同じ温度なのか。上下にセンサを置き、グラフを見て、違和感があれば測り方を見直す。使いにくい道具があれば、自分でもっといいものを探す。

創業者が自分の感覚で80℃15分にたどり着いたように、3代目は自分の感覚にデータを重ねながら、発酵の温度を掴んでいる。未知だったヨーグルトづくりを、少しずつ自分たちのものにしていく。その過程で、温度を確かめるために使われているのが「おんどとり」だ。そのことを、メーカーの人間として素直にうれしく思う。

取材にご協力いただいた西岡さん、そしてオブセ牛乳の皆様に、深く感謝申し上げます。

 


オブセ牛乳ホームページ
オブセヨーグルトのページ

ライタープロフィール

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おんどとりイズム ライター。T&DではCX推進部に所属。趣味はウクレレ。